世界はそれを愛と呼ぶ




「ええ、本人。西園寺麗良(サイオンジレイラ)─知ってる?」

「知ってるも何も、西園寺家最後の」

「そう。最後の、行方不明のお姫様。色んな話を聞いたわ。本当に色んな話を─それで、この廃墟がどうやって成り立ったのか、ある程度把握して帰ってきたの。けど、まさか、話を詰めている最中にハルが動くなんて......」

彼女はそう言いながら、ブツブツとひとりの世界に飛び込んでしまった。
彼女からすると、【西園寺家最後の令嬢】が生き残っていたとしても、特段、驚く理由もないのだろう。

しかし、普段からそういう世界で生きている相馬からすれば、西園寺家が遺した多くの権限や資産などの行く末について問題があることは昔から有名であったので、その解決の糸口が見えて、何とも言えない気分である。

生き残っているにしても、事件があった年代を考えれば、かなり御高齢のはず。─甲斐に連絡してみよう。

とりあえず目の前のことを片付けなければならないので、指で印を結ぶ。深呼吸をして、目を閉じる。

周囲が静まり返り、自然が騒ぎ出す。
木々が揺れる音を聴きながら、神経を研ぎ澄ます。

「─櫂、この廃墟ってどこまで下がある?」

「把握してる限り、地下2階までは。その先からは有毒ガスが酷く、進めそうにない」

「そうか」

とりあえず地下2階の深さを意識しながら、範囲を広げてみる。......ああ、なるほど。

「櫂、沙耶、行くぞ」

「え」「......」

驚く彼女に微笑みかけ、櫂は無言で付き従う。
連絡が来ていたのか、門番も即座に通してくれる。

「沙耶」

「?、何」

現状を何も理解できないという顔をしながら着いてくる彼女に、右手を差し出す。

「ちょっと抱き上げても?」

「え...、え?」

困惑するのは当然であり、でも、なんて説明すれば時短になるのか分からない。

「抱き上げても良いなら、連れて行ける場所がある」

「どういうこと......?」

犯罪者みたいな言葉になってしまって、彼女を余計に混乱させてしまう。

「...混乱するのは分かるが、今は相馬の言う通りに」

最終的に櫂の言葉で、彼女は時間が無いのだと思い出し、相馬に向かって頷く。

「ありがとう。後で説明するよ」

許可を取り、抱き上げる。これだけで、彼女の人体は守られるだろう。かなり密着することになるので、本当に申し訳ないなんて思っていると。

「重くはない方だと思うんだけど......大丈夫?」

「ああ。心配になるほどには、軽いから大丈夫だ」

片手で抱えながら、そう微笑んでおく。
けど、嘘ではなかった。
本当に軽すぎる。小さい子を抱いている気分。

「相馬」

「ああ」

保護された扉の奥は、淀んだ空気だった。
ここが廃墟となった、かつての名家。

荒れており、焦げ跡なども見られることから、この廃墟の凄惨な歴史が見えてくる。

人の気配なんてゼロに近い空間で、相馬は空気が淀みを感じながら、目を閉じる。

「─あそこか」

空気の悪さを感じているのか、口元を押さえる沙耶。
対して、平然として屋敷内を見回る櫂。