世界はそれを愛と呼ぶ



「あの!」

外階段を駆け下りて、廃墟のことが書かれた書類を櫂から受けとり、家の前に横付けしてあった車に乗り込んで、サッと目を通す。

そんなに遠い距離でもないはずだが、少し傾斜がある為、車の方が早いと判断したらしい。
櫂が運転席に乗り込むと、急発進する車。

一緒に後部座席に乗った彼女─沙耶に声を掛けられ、目が合う。瞬間、身体の奥深くの血が騒いだような。

「巻き込んでごめんなさい……、知ってると思うけど、私は黒橋沙耶。沙耶って呼んでください」

そういう彼女は今にも泣きそうで、相馬は微笑んだ。

「大丈夫。俺はハルさんを知らないけど、絶対、見つけ出してみせるから。─俺は御園相馬。相馬でいいから、とりあえず、少し聞いてもいいか?」

ここまではっきりと言えるのは、この身体のおかげだ。
でも、なぜだか、相馬の言葉に頷いた彼女を見ていると、変に血が騒がしい気がする。

「ハルさんの特徴は?」

「えぇと、御杜さんの恋人で─……」

ぞわぞわする感覚に気が取られかけた時、爆弾発言に思考が止まる。─感覚なんて、忘れるほどに。

「……、なんて?」

思わず聞き返すと、彼女はキョトン顔。
俺の頭には、?がいっぱい。【狂人】に恋人……?

いや、悪いことでは無いが、意外すぎて、俄然、ハルという女性に興味が湧く。

「櫂、お前、異性に興味あったんだな......」

「相変わらず、失礼な奴だな。異性に興味がある云々以前に、彼女だから愛してるだけの話だ」

だから、こんなにも焦り、怒っているのか。

(まあ、恋人が無断で、危険な場所に踏み込んでいることを知れば、誰だってそうなるだろうが─……)

生まれた瞬間から、逃れられない周囲の環境という名の呪縛は誰にでもあるだろう。
相馬も、櫂も、それに囚われ続けてきた人間側だ。
囚われ続け、強制され続けた側。

必要最低限の会話しか好まず、楽しそうに、興味惹かれるものを追うばかりだった天才は、廃墟前に車を停めると、運転席から飛び出した。

「─ここに、ハルは来たか」

沙耶と慌てて後を追うと、門番に詰め寄る櫂。

「い、いらっしゃってませんが......」

普通はそうだろう。健斗さんから厳命されているはずだし、余っ程の事がない限り、簡単に侵入を許すとは思えない。

「廃墟は大体、どれくらいの広さなんだ?」

健斗さんが建てた、廃墟を覆う高い壁を見上げる。
高い壁だ。もし崩壊してしまったとしても、周囲に影響がないよう、手を尽くしたのだろう。

「あくまで、目算なんだけど。120haくらいだと思う」

「120......ひとつの屋敷として仮定するには、広いな。健斗さん達と話して、かつての名家である【西園寺】の家ではないかと推測してるところだが......」

「あ、その事なら、私も調べたけど、どうやら西園寺の家で間違いなさそうだったわ。本人にも聞いてきたから、間違いないと思う」

「え、本人?」

櫂が入口でここ周辺の防犯カメラを確認している間、できる限りの情報を集めようと話を進めると、彼女は普通にとんでもないことを口にした。