世界はそれを愛と呼ぶ



思考が変な方向に転落しかけて、相馬は頭を振る。
考えても無駄なことを追い掛けても、無駄なものは無駄であり、自分の心を削るだけだと知っている。

「じゃあ、相馬、明けのクラスだが─……」

「─お父さん、お母さん!」

勇真さんの言葉を遮るように、玄関が激しく開く。
リビングルーム入口の階段前で、

「ハルを見てないっ!?」

息を荒らげて黒髪の少女は、叫ぶように尋ねた。
その声でユイラさんは目覚め、

「ハル……?少なくとも、ここには来てないわ?」

と、寝起きながらに、周囲を見渡して告げる。

「そうよね?」と、健斗さんに確認しているが、確かにここに新しい参加者はおらず、ハルという人物の容貌は知らないが、相馬も心当たりはなかった。

「今日は見てない。それより、沙耶。千春は」

「今日は入れ替わってるの!─御杜(ミト)さん!やっぱりいない!」

彼女は慌ただしく、玄関の方に向かって叫ぶ。
聞き覚えのある名前に立ち上がり向かうと、玄関先で珍しく、息を乱している師がいた。

「─櫂!何があった!」

櫂はこちらに気づくと、

「もしかしたら、ハルが勝手に廃墟に入ったのかもしれないんだ。姿が見えなくて……チッ、」

と、久々の再会にもかかわらず、舌打ち混じりに、即座に情報を教えてくれた。

「廃墟に入った可能性は、何割くらいだ?」

「九割」

「……櫂が言うなら、それはもうほぼ確定だろ」

彼のことは、昔から色々な意味で信頼している。
最後に会った時は無表情の、狂人だったはずだが。
この街で約1年過ごして、なにか心境の変化があったのか、空気が柔らかくなっているような気がする。

「健斗さん、すみません。俺、ちょっと出ます」

「ええけど……廃墟入るん?」

「はい。─多分、一番、俺が安全なので!」

詳細は何も知らないけど、胸張って言える。
この体質のせいで、逃げられなかったんだから。
自分自身の身体のことならば、自分自身が一番よく知っているし、自分自身の身体、どう使うも自由だろう。

「水樹!行ってくる!」

「りょーかい!気を付けてね!」

靴を履き、3階に向かって声を上げると、耳の良い水樹は事態はある程度把握出来たのか、明るい声でそう言った。