世界はそれを愛と呼ぶ




「それで?」

「その家が建っていた位置が大体、この街の端の方と重なっていて。その家の屋根裏部屋の小窓から、朝日が昇る海を眺めるのが好きだったという文を見たことがあります」

あの文章を信じるならば、その屋敷があった場所というのは、綺麗に【西園寺】があった場所と一致してしまうかもしれない。

また、西園寺家の最後の当主とされる人は温和な人であり、当主であった父や後継の兄の急逝により、研究職を辞し、当主になったのだと聞いたことがある。

優しかった彼は父や兄の急逝に深く心を痛めていたが、幼い頃に与えてくれた研究室を形見として大事にしていて、身分や権力よりも研究に没頭し、食事や睡眠を疎かにしては、よく娘御に怒られていたという話を、幼い頃、今は亡き天宮のじいさん─美月の高祖父に聞いたことがある。

美月の高祖父は、彼と親友だったそうだ。
若い頃はずっと一緒にいて、なんでも話せる仲だったと。
しかし、最期は何も言わずに死んでしまったと。

だからこそ、少しでも現代を見て、それを持って会いに行き、恨み言のように話してやるんだと言い、彼は百を超えてもなお、数年は生きていた。
あまりにも生命力が強すぎて、長生きしていたはずの美月の曽祖父の方が先に亡くなってしまい、『軟弱者め』と言っていたのを幼い頃に聞いた。

素直に(何言ってんだ、この爺さん)だったが、若くして結婚し、子を授かった彼にとっては息子は互いを鼓舞するような相手であり、息子を失った後、あっさりと眠るように逝った。

可愛がられていた美月でさえ、別れを悲しみながらも、

『変な祖父ばかり……』

と、泣いていた。その涙は両方の意味があるのだろう。

「相馬の話が当たっていれば、間違いなく、西園寺の屋敷だろうな。でも、西園寺の屋敷として片付けるには説明出来ないくらい広範囲な廃墟だ。どっちにしろ、研究は進めてもらわんとダメだろうな」

健斗さんはため息をつき、眠る愛妻の頭を撫でる。

「そうですね。うちが異常なだけで、西園寺はまともなはずです。陽向さんに協力するようには言われていますので、こちらも名家の方へと遠回しに掛け合ってみようと思います」

御園の人間として生まれて、当主をやっているおかげで、それなりの伝手はある。使える場面で使わないと、損だ。

「わざわざすまんな。でも、一番は学業だ。どうせ、相馬はこれから先、己に課せられた責務からは逃れないだろう。逃れられない、っていうのもあるだろうが、俺の知る相馬は逃げることを選ばないからな」

彼の言うとおり、相馬に逃げることは許されない。
誰にでもなれるわけではない、誰でもいいのならば、父が居なくなった時、後を継ぐのは相馬じゃなくて良かった。

誰でも良くないから、相馬が選ばれた。
誰でも良くないから、相馬は逃げられない。
そして、彼の言う通り、相馬は逃げることを選ばない。
自分でも不思議だが、逃げる選択肢がない。

それは己の異常さや人間離れなことを自覚しているからか、それとも、それ以外か。