世界はそれを愛と呼ぶ

☪︎


─綺羽達は、どうやら施設から抜け出したようだ。
数人の囚われた人々を助け出したようだが、それでも、全員とまではいかない。嗚呼、本当に胸糞が悪い。

「─慧、お前は帰れ」

慧の機嫌に呼応する、空。
あちこちに落ちた雷は、機械を全て壊していく。

火事が起こり、火が迫る。
施設の職員共は逃げ惑い、実験体が逃げ出さないように作った迷路に自らはまって、絶望している。

それを空中から眺めながら、彼らの眼前に落雷する慧。
そんな彼の肩に触れて言えば、「どうして?」と、純粋な疑問が返ってきた。

「相馬は帰らないのに」

「帰らないけど。……まだやるべき事があるし」

「何それ。手伝う」

「……お前、子どもの時みたいに、制限が取れた子どものような瞳をしてんだよ。そんなに輝かせて、この土地破壊されたら、たまったもんじゃない」

「相馬は怒ってないの?」

ここまでの興奮状態は珍しく、普段はテンションが低い彼も、ここまで神の力を行使すれば、精神的なダメージは大きくなってくる。

実際、少し幼い話し方、顔立ち、そして、背丈。

「……怒っていても、表には出さないよ」

「どうして」

「お前が巻き込まれるだろ」

「そんなに強くなったのか」

「……」

自分が強くなったかどうかなんて知らないが、少なくとも、湧き上がってくる衝動を全て解放した時、そばに彼がいるのに不安を感じている。

「……俺はともかく、お前は帰れ。茉白が目覚めた時、抱き締めてやれなかったらどうすんだ」

幼くなった姿で、彼女を抱きしめたいのか?─そう尋ねると、彼は目を瞬かせた後、小さく首を横に振った。

「よし。じゃあ帰れ」

「相馬は帰ってくるよな」

「帰ってくるよ。帰らなかったら、すべてが終わる」

「……言ったからな」

まるで、釘を刺すようだ。
沙耶に初めて触れたあの夜も、沙耶の様子がおかしかった。自分はそんなに変なことを言っているのか。

よく分からないから、どうしてそんなに釘刺されているのかは理解出来ないが、死ぬ気はない。

「先帰る」

「ああ」

「─……またな」

慧は消える瞬間、そう言った。相馬は笑う。
きっとこれから、化け物となるから。
記憶は曖昧に、相馬が相馬に戻る時には全て、何もかもが終わってしまっているだろうから。

(ああ……早く帰って、沙耶を抱きしめたい)

2週間近く、もう会っていない。
喉が渇く。触れたくて仕方がない。
─……嗚呼、そういえば、あと少しで。







月が満ちる。