世界はそれを愛と呼ぶ



「和子は、懸命にやっていた。でも誰も褒めなかった。見なかった。認めなかった。口先ではなんとでも言い、裏ではその血筋を罵った。─”番の立場を奪って生まれた卑しき息子の忘れ形見”。番制度を絶対視していたあの時代、和子は本当に生き辛かったと思う。幼かった相馬がキレて、全てを片付けたと噂で聞いた時、『ああ、そうすれば良かったのだ』と、私は反省したから」

”今更何を言っても、後の祭り”

彼女は自嘲しながら、自分が褒めることなどは彼女の神経を逆撫ですることだと気づいていても、喧嘩しても、罵られても、彼女が泣いて、例えば、殴り合いになってしまったとしても。─彼女のそばにいるべきだった、そう言った。

「相馬が生まれたあの日、鬼の郷の婆様は『ああ、帰ってこられた』と呟いた。─その瞬間、解れかけていたこの家の結界が強固なものと変わり、和子は狂った。どこまでも、この家は和子を苦しめるものでしか無かった」

鬼帝を産んでしまった姫の末路は、悲惨である。
しかし、それは偶然の賜物。なら、姫が悲惨な結末を迎える姿を傍観するしかないのか?
─否、ひとつだけ方法はあるのだと。

「……結局は、血縁の呪いだ。その呪いを解いてしまえば、そもそも、血縁があったこと自体を無くしてしまえばいい。それが出来るのが、我々という化け物だ」

それをしなかった。誰も思いつかなかった。
思いついた時にはもう、彼女は……。

「相馬は、御園要の魂を持っている。彼の魂はきっと、永遠に姫の元に産まれてくる運命なんだ。そのための準備を、我々が出来なかった」

抱きしめてあげなければならなかった。
そばにいて、話を聞かなければならなかった。
いっぱい愛を与えてあげなければならなかった。

空っぽな姫から生まれるにはあまりにも、彼の魂は強すぎるのだと。

「─……ならば、相馬が亡くなったその後、その魂が輪廻へ還っても、この世に帰ってきても、二度と悲劇が繰り返されることがないよう、努めなければなりませんね」

沙耶は笑った。過去は変わらない。
死者は帰ってこない。なら。
少しでも未来に残さなければ。
非道かもしれない。反応としては間違ってるかも。

─でも、泣いて立ち止まる生活は散々やったから。

「……さてと、パーティーまで時間がありませんが、全て、水樹達が動いてくれています。ドレスなども全部、美月達が準備してくれると。だから、私はここで知識を得ながら、相馬の帰りを待ちます」

相馬と生きていくと、覚悟を決めた。
あの人の隣にたって生きていきたいと、自分で望んだ。
なら、立ち止まってはいられない。