「叔母様?」
「悪い。沙耶の様子を見に来たんだ。盗み聞きするつもりはなかったんだが……恐らくな、御園要は、神夜の魂を守ったんだよ」
千華さんはそう言いながら、座り込んで。
「─自分の存在が無くなっても、神夜が輪廻に還れるその日まで、誰かに利用されないように」
「魂を利用って……よく分からないのだけど」
「私もよく分からんさ。けど、この家の文献に残っている。本当に能力があるものは、この世に何かを残している限り、御魂となって彷徨い続けるのだと。そのような御魂を利用した、禁術が存在するのだと」
「禁術……」
「まあ、そんなに数はないが。私達でもわかる、言い伝えられている禁術は、この家の理を書き換えるものだな。さっき話していた、鷹遠が作り上げたものだ」
鬼と人の共存の在り方、この家が選ぶ正統な後継者。
「選ばれていないものが当主の座につけば、その者はすぐに息絶える。……家族を全て殺された鷹遠が一番最初に遺したとされる、決め事だな」
欲などで、この家を乱すものは許さない。
─そうやって彼らは千年以上、生き抜いて生き抜いて生き抜いて……嗚呼、だから。
「御園要は、鷹遠を輪廻へと還した。そして、鷹遠の業によって切られた定めを結び直し、彼らの間に生まれるはずだった子に祝福を与え、救いあげた。何処にも行けず、輪廻へも帰れなかった赤子を救ったその後、還れぬ神夜が壊れないように、利用されないように、桜の木を媒体に、自分自身を贄として、絶対的な結界を張ったのだ。……と、お母様は言っていた」
それは昔、千華さんのお母様─つまり、相馬や京子さんの祖母である千夏(チナツ)さんが、あの桜の木に見せられた記憶の話だという。
千夏さんはそれを子どもたちに聞かせ、御園家で生きるということの意味を考えさせたのだ。
「その話を聞いて、私は外へ出た。この家に、私は要らないと思った。……愛されて、大切に育った私からすれば、この家は窮屈で、寒かった。和子は両親と共にいる私を見て、よく羨んでいたよ。当然だ。だって、和子の両親は既に亡くなって、その血筋は腫れ物のように触れられて。唯一の肉親である弟とも引き離され、叔父だと、お父様を紹介されたとて、『どうして助けてくれなかったの』となる」
御園家の当主なら、─……万能ではないけれど、世間的には絶対的な権力を持った彼に願う気持ちは分からなくもないだろう。ましてや、幼い少女だった。
「言い訳がましいがな。─年下の、私は能力が強かった。姫としてではないよ。両方だ」
困ったように笑う彼女は、稀に生まれる鬼と姫の能力をどちらも扱うことができる娘だった。
元々の身体能力も高く、学力も高く、家格も高い。
不自由なことなど何もない彼女は、和子にとってはコンプレックスの対象でしかなく、お互い、会話したわけでもないが、千華さんは居心地が悪かったと。


