世界はそれを愛と呼ぶ




専用マスクなどで完全防御して、研究しているらしいが、危険な仕事であることは間違いない。

─それでも、ここに来て、もうすぐ1年。
彼は有毒ガスに始まり、多くの功績を挙げているらしい。
放置されてばかりだった廃墟を、ただ雨ざらしにするのではなく、取り壊すにしろ、決して事件が風化することがないように。

決して忘れ去られることがないよう、健斗さん達は世間に刻み込んでいきたいという思いは変わらず、方法を模索しているらしい。

「相馬は基本的に、この国のことは頭に入ってるんだっけ?」

「はい、まあ……とは言っても、ここら辺は特に、国が証拠隠滅のためなどで手を加えているので、有耶無耶になっている部分も多く……事件関連で、かなりの爆発事故や火災も起きていて、本当に明確な記録がないんです。燃えてしまったのか、意図的に消されたのかわかりませんが」

事件の黒幕に関する人達が、自分たちにたどり着くことがないよう、消した可能性は大いにある。
何故なら、事件の被害者だと思われる人の遺体は少なからずとも見つかっているが、半数以上が容貌で判別できないようにされてしまっていた。

─遺族の怒りや悲しみは、計り知れない。

健斗さんの後を追って、リビングに入る。
離れまで綺麗に見える庭園は、リビングに招かれた人々の目を楽しませる作りになっており、ソファーに座るユイラさんは健斗さんの肩に凭れ、目を閉じていた。

「……あんな感じで、沙耶が居ないところで休んでるんだ。夜、眠れなくなってしまってな」

彼女がいたら、気に病んでしまうから。
そうやって子が知らぬところで静かに耐える姿は、母親だからというのか。……相馬にはよく分からない。

完璧に人にはなりきれず、母親に愛されなかった自分には理解できる範疇を超えている。

別にそれを悲観するつもりも、よく知らない彼女を批判するつもりもないが、彼女が何を案じ、何を気にして、廃墟のことを気にしているのか。それは気になる。

「ー勇真さん、ちょっと聞きたいんですけど」

「うん?」

「廃墟の向こう側って、海が見えたりしますか」

「海?……確か。方角的にはそうだな。東だから」

「廃墟に地下はあります?」

「地下は、諸に実験場だったと聞いている。限られた人間しか足を踏み入れてなくて、俺は辞退したから」

人を救う医者を生業にしている勇真さんからすれば、その実験は殊更、命の尊厳を踏み躙っているもの。
そんな彼の気持ちも慮り、健斗さんは許可したのだろう。

「相馬、何か分かったのか?」

「……何十年前かは定かではありませんが、国には【西園寺】という大きな家があったんです。それこそ、我々【御園】に次ぐぐらいの」

しかし、ある日突然、姿を消している。
優しい当主と、器量良しな娘の二人暮らし。
薄暗いところもなく、人々に愛されていた記録が残った本を、御園家で手持ち無沙汰に読んだことがある。