世界はそれを愛と呼ぶ




「相馬、このあと予定あるの?」

「いえ、特には。水樹…弟に付き合って、散歩していただけなので。時間があれば、学校でクラス分けなどの詳細を聞きに行こうかなとは思ってましたけど、別にまだまだ時間はあるので」

「クラス分け?それなら、うちで見ればいいよ」

「え、あるんですか?」

「あるある。コピーが。教師陣が作ったものをね、俺達が貰って、授業内容を組み直して、教師陣が目を通して……的な流れがあるんだけど、その段階で手に入れてる」

「それって、俺が見ても良いものですか?」

「全然大丈夫。こちらが手を出そうとするとさ、教師陣はこちらに意見を求めるんだよ。でも、いつも子どもたちと触れ合ってるのは彼らだ。子どもたちのことはさ、俺達以上に彼らの方が詳しい。だから、俺たちはコピー以外は受け取らないようにしてるんだ。勿論、君の幼なじみみたいな特殊な理由がある場合は、きちんと口出ししているけどね。教師陣もこちら側が君に見せるかもしれない前提で、早めに持ってきてくれたものだし。遠慮なく見ていって」

そう言われて、招かれて入った玄関は一般的な家に比べると、かなり広めに作ってあった。
天井ではシーリングファンが回っており、建物的には3階にあたる階の廊下で、水樹と先程の青年─春陽が何か盛り上がって話しているのが見える。

「─お、来たか。相馬」

靴を脱いで上がり、少し歩いた先の数段の階段を登ると、広がるリビングルーム。
お邪魔すると、快く出迎えてくれた健斗さん。

「お邪魔します。お久しぶりです、健斗さん」

「いらっしゃい。久しぶり。─勇真、沙耶が部屋に居ないんだ。病院の方に行ってるか?ユイラが心配していてな」

健斗さんは相馬を微笑んで迎えたあと、背後にいた勇真さんに声をかける。勇真さんは「ああ…」と言いながら、自身の病院がある方を指さして。

「廃墟に行くなって言ったから、今は櫂の元で色々と調べてる。櫂には見張りも頼んでいるから、勝手に行くことは無いはずだ。念の為、傍には護衛もつけてる」

「なるほど」

勇真さんからの報告に微笑むと、直ぐにリビングの方へと踵を返す健斗さん。相変わらず、愛妻家だ。

「沙耶の一件以来、ユイラさんは弱りきってて……仕方がないことではあるけど、健斗さんも気が気じゃないんだ。沙耶が自分に似て、無茶をすることを自覚しているから」

「でも、ひとりで勝手に廃墟に足を踏み入れていた時期もあるんですよね?」

「ああ。でも、警備が許したのは、表部分だけだ。俺達が許可を出していないからな。警備をしている人間もまた、大切なもの街の住人だ。何があるか分からないところに突っ込むわけにも行かなくて……だからこそ、今回、櫂にはかなり助けられているんだ。彼は知識があるから、決して無理はしない。立ち入り禁止区域の奥の方で、有毒ガスが検知されたと聞いてから、正直、気が気じゃないけどね。─でも、いつかはやらねばならぬことだから」

勇真さんの話によると、櫂の繋がりで、専門家なども招かれているらしい。ガスの分析はそこそこに、人体に害があるということだけを明らかにした櫂は、街外れの廃墟が、元々、何の建物だったのか、何が行われてたのかを明らかにするために研究しているらしい。