世界はそれを愛と呼ぶ




「……てめぇが何もしなければ、俺もそのまま記憶が無いふりを貫いた。てめぇが何もしなければ、神夜は死ななかった。この側近も、赤子も、両親も、兄も!全部、お前が殺した」

ぽたぽたと滴る赤い液体が、男の上に降る。

「─安心しろ、てめぇの地獄はすぐには終わらせねぇ」

その後、男は言葉通りの生き地獄を味合うことになる。
鷹遠の人の心は、共に愛妻と天に還った。

極楽浄土だとか、そんなものはどうでもいい。
生きる希望は、完全に潰えてしまったのだから。

鏡を見て、自嘲する。
完全に化け物、鬼となった己の姿。

多くの人の命を散らし、多くの赤い液体を撒き散らし、全てを位置から築き上げるため、既に物言わぬ壊れた男を代理として、当主としたまま。

目の前で数多くの非道を成し、強すぎる力を前に何も出来なくなる恐怖とは何か、奪われる実感を与えながら、鷹遠は御園家を掌握していく。

そして、強すぎる力には、強すぎる衝動がある。
満たされぬ欲求は、鷹遠を狂わせていく。

いつしか、鷹遠は鬼共から”帝”と呼ばれるようになっていき、御園家の庇護を受けられるよう、制度を作り替えた。
鬼共は鷹遠を慕い、それは、鷹遠の実姉まで導いた。

「……姉様、なんですね」

「……」

姉は虚ろな目をしていた。
その手には、赤子。
姉の伴侶曰く、子を産んで狂ったのだと言っていた。

姉が初代当主の能力を強く引いていることは知っていたから、その能力が影響しているのかと、自分の変化と見比べていると。

姉がいることを記載して遺しておいてくれた父の手記の中に、その似たような記載を見つけた。

父曰く、初代当主の能力を持つもの、巫女としての力が強いものは、鬼の頂点に立つ者の伴侶となる運命。
初代夫妻の影響か否かは不明。

(もしかしたら、初代夫妻が婚姻を結び、この地に御園家を興すとき、何かしらの契約が結ばれているのかも)

それに反してしまったから、姉は─……。

姉は事件前、鬼の里に遊びに行っていたらしい。
そして、家族の訃報を聞き、永遠に帰れなかったと。
そこで婚姻し、幸せな日々と思えば、次は。