─少年の名前は、鷹遠(タカトオ)といった。
彼は由緒正しい家の生まれであり、家族に愛された末っ子だった。
少年は、家族は殺されたのだとわかっていた。
家族が全員死んだ後、我が物顔で、鷹遠の両親が座っていた地位に座った一族がいて、本能が彼らが”敵”だと警告するから。
生き残る為に、記憶をなくしたフリをした。
生まれも、育ちも、親も知らない。
習ってきた教養全てもひた隠し、下男の仕事を程々にこなしながら、生き長らえた。
「……滅んでしまえばいいのにね」
己の利益ばかりで、民には何も還元しない当主。
美しいと評判だった一族が死に絶えた後、かけ離れた姿で世に戻った一族は、とても美しいとは言えなかった。
『御園家は、御前家から生まれたものだ!つまり、我々が本来の、正当な血統なのだ!』
そう訴える当主の声を遠くに聞きながら、いつも通り仕事をしていると、近くでそう呟いた女の子。
─当主の一人娘。当主が愛人に産ませた、娘。
美しく着飾ってはいるが、その目は遠くの父親を見る目としては冷たく、軽蔑していた。
鷹遠に気付くと、彼女は笑った。
「ごめんね。聞かなかったことにしてくれる?─私は神夜(かぐや)。あなたは?」
─それが、二人の出会いだった。
最初は警戒していた鷹遠も、次第に神夜となんでも話す仲になっていき、神夜の側近として召し上げられた時は、予想外の出世に驚いたものだ。
神夜はあの男の血を引いているとは思えないくらい、美しく、優しい女性だった。
「あの人、駒が欲しかっただけだもの」
母親が亡くなり、強制的に屋敷に連れてこられた少女。
庶民として育ってきた彼女に、多くの欲はなかった。
【嫁入り】という駒のために、と、悲しそうな彼女を鷹遠は抱きしめた。


