「……綺麗でしょう」
沙耶は、夏鶴と冬璃に問う。
彼女が両手を広げた。
彼女の背中側では、満開な桜が咲き誇っている。
一年中、散ることがない桜の木。
御園家内の塀が高く、とても広い庭の真ん中に位置するそれは、千年以上、美しさを保ったまま、此処に在る。
これまでの歴史の中、ほんのりと輝きを持つ大木を、御園家の人々は象徴のように大切に育ててきた。
水樹は花より団子だから、桜の木に興味無かった。
これまで1度も、気になったことすらなかったんだ。
でも、なぜだ。沙耶の後ろで輝くそれは、知らない。
見たことがない。そんな輝く姿なんて。
「……っ」
兄さんの結界が張られている限り、この場所に変な介入は有り得ない。
もしも、当主たる兄の意志に反するものが訪れるならば、兄さんの結界が発動し、沙耶は身動きが取れなくなるくらい、守られるはずだから。
だから大丈夫だと思っても、どこか不安を拭えないのは、微妙な気持ちの時にいつも、返事をしてくれる片割れが今、傍にいないからだろうか。
そんな水樹の心情もお構い無しに、沙耶の一挙一動に魅入られている夏鶴と冬璃をその場に置いて、沙耶は桜の木に惹かれるように、導かれるように。
大木に触れて、「教えて」と呟いた。
瞬間、発光する桜の木。
眩しくて、目が開けていられなくて。
「…………っ、なんなんだ」
外に漏れ出ないように管理しているとはいえ、ここまで光る現象を見たことがなかった。
目を凝らし、沙耶を探す。
「…………っ、沙耶!?」
眩しくて何も見えない中、見えた黒髪が溶けていく。
地に沈むように、舞う花弁の中でふわりと消えていく姿。
─残されたのは、夏鶴と冬璃のふたり。
「沙耶っ、どこにっ」
「おいっ、御園水樹!」
夏鶴に名前を呼ばれるより先に、水樹は沙耶の気配を探した。
「……この木が、沙耶を呼んだ?」
推測で見上げて呟けば、
「ここに、彼女の気配はあるな」
と、叔母が頷いた。
「違う世界線へ引きずり込んだ……相馬兄さんの結界があるのに?」
相馬兄さんはいかなるものが相手であれ、悪意があれば、弾くはず。それなのに、簡単に攫われてしまった。
「……”お帰しください”」
焦る水樹の横で、叔母が大木に触れ、目を閉じて、祈る。
姫巫女ほどでは無いが、御園家の直系の女として、能力は有している。しかし、
「─ダメだ、私では何も見えない」
彼女は首を横に振り、桜を見上げる。
「じゃあ、京子姉さんを……」
呼びに行こうと、振り返ると。


