世界はそれを愛と呼ぶ



「勇真さん、詳しいですよね」

「なんか、色々と話してくれるんだよなぁ......面白くて、聞き入っちゃう俺も俺なんだけど、正直、御園の知ってはならないことを聞いてんじゃないかって、ハラハラよ」

─恐らく、伯父さん達は話しやすいのだろう。
基本的にとても明るい性格で、付き合いやすい彼は頭の回転も早く、口も堅く、その上、記憶力も良いので、話していてつい話しすぎてしまう。

「大丈夫ですよ。話しちゃマズイことなんて基本的にない......とは言えないですけど、流石にそれを話して、大切な友人である貴方を、伯父達も失いたくないでしょうし」

「大切な友人って......ちょっと恐れ多いな。友人となるのに年齢は関係ないとは思うが」

「関係ない事だと、伯父達も言いますよ。それに、勇真さんが仰ったように、あの二人も子供らしく振る舞うやり方が分からなかったそうですから......遊び方?も、俺と同じで分からなかったみたいで」

「子供らしく振る舞うことが分からない?......いや、まぁ、御園という大きな家で生まれたなら、そうなるのか?」

「伯父達は高校生の途中まで、普通の一般人として生きていましたけどね。やっぱり遺伝子がそうさせるのか、他とは違って秀でていたらしいです。─あ、これは、祖父が祖母とヨリを戻す前に息子たちのことを少しでも知りたくて、勝手に調べた時の結果なんですけど」

「必死だな」

「必死だったんですよ。特に祖母は逃げるのが得意だったので。まぁ、陽向伯父さんは人と関わるのが苦手な人だったんで特に大きな問題になったことは無いらしいですが、陽希伯父さんはあの性格で人を集めやすく、その上、かなり鈍感な方なので......」

「それはまあ......父親に似たか、母親に似たかの違いだろうな。恐らく」

祖父母には、3人の息子と1人の娘がいる。
長男の陽希と三男の春馬(相馬の実父)は明らかに祖父似であり、次男の陽向と長女の千華(チカ)は祖母似だ。

「ということで、あまり身内は当てにならないのでお聞きしたいんですが、高校生らしく遊ぶっていうのは、どうすれば良いんでしょう......?」

「んー、そうだよな。そうなるよな。実体験の話になるが、俺は高校生の頃は、大樹に付き合って、ブラブラと遊んでたけどな。それこそダーツしたり、売られる喧嘩を買って喧嘩したり、麻衣子と出会ったあとは麻衣子と買い物に行ったり、映画に行ったり......」

「なるほど?」

「まぁ、俺達は授業にちゃんと出てなかったから......。出らんでも良い学力が、幼い頃についちゃってて......」

「......」

身に覚えしかない話に、相馬は笑うしかない。

「特に考えずに過ごしてたら、高校生活3年間なんて秒で終わってたから、マジでこの1年間、仕事以外のことを考えて生きてみれば......遊ぶ云々は、後から事柄についてくるものだと思って、気負わずに」

「いやもうほんと、抽象的すぎるんですよね。身内が求めることが」

「でも言葉にして説明するのは難易度が高いし、経験していないことを求める場合、なんて言っていいか悩むのも理解出来るし。うーん......あ」

悩んでくれる勇真さんは、ふと、何かを思い出したように家の方を見た。

いつの間にか水樹は消えていて、勇真さんと話し込んでいる間に、さっきの青年と家の中に入ったのか。

「そういや、うちの子は割と高校生らしい生活をしている方かも。そもそも、この街にそういう娯楽があまりないから、何とも言えないけど。許可を取れば、全然“外の世界”にも遊びに行けるし、うちの息子に聞いてみたら、なにか掴めるかもしれない」

「その件で聞きたかったんですけど、勇真さん、養子を二人迎えた話は聞いていたんですが、またひとり、家族として迎えたんですか?」

「あ、言ってなかったな。ふたり、息子が増えたんだ。その子達をうちの子にすることは割と早くから、それこそ、数年前から決まっていたんだが、ほら、ここは特殊な地だから、色々と手続きに時間取られてな〜正式に養子にしたのは最近なんだよ。一緒に暮らしていたけど、正式な息子達ではなかったから、敢えて言ってなかった。さっき、お前が会ったのは三男の春陽(ハルヒ)だ。その双子の弟に夏陽(ナツヒ)っていう四男もいる。玄関開けてた奴な。双子を離れ離れにするのも違うしな、それぞれの望みでまとめて迎えたんだ」

「そうなんですね。長男の疾風(ハヤテ)さんは、大学生でしたっけ?」

「ああ。会う機会もあると思うぞ〜相馬が通う予定の高校と同じ学院の大学2回生だから。次男の創祐(ソウスケ)は、沙耶と...妹と同じ学年だ。だから、相馬の1個下になるな」

「沙耶......というと、健斗さんの?」

「そうそう。暫くの間、留守にしてたんだが......最近、帰ってきたからな。今は出掛けてる」

「そうなんですね......ん?」

相馬より一個下の、この街に住む、桜と同い歳くらいの。

「......もしかして、桜を救ったのは」

「ああ、そうか。その繋がりがあったな。そうそう、沙耶が救ったんだ。俺は出張でいなかったんだが、家に帰る勇気がなかった沙耶がフラフラしている最中に見つけたらしく......応急処置後、俺の医院に任せて、また姿を消したらしい」

「それは......色んな意味で大騒ぎだったでしょう」

「そりゃあまぁ、かなり大騒ぎだったよ。健斗さんにとっては父親のような存在の雪(セツ)さんの愛妻が襲撃された件で依頼されて調べていたら、その際に行方不明になっていた実の娘がふらっと帰ってきて、誘拐されたはずの雪さんの孫娘を助けて、またふらっと行方不明になって。バタバタしていたせいで、沙耶を捕まえられなかったってなった時はもう......沙耶のことを血眼になって探していた連中が、めちゃくちゃ後悔してたな」

その頃の忙しさを思い出しているのか、遠い目をする勇真さん。帰ってきた瞬間から、そのバタバタに巻き込まれたそうで、今でも思い出す度、少し胃が痛くなるらしい。