世界はそれを愛と呼ぶ



「〜っ、ルカ、愛してるっ!」

フェリーチェは全力で抱きつき、それを受け止めたルカは笑いながら、背中に手を回してくれる。

「僕も愛しているよ」

「ルカってば、完璧すぎて困っちゃう。私はルカに釣り合わないんじゃない?」

「えぇ、何で?それは、適材適所でしょ」

「フフッ、それもそうね?」

額を合わせ合いながら、なんてことない言葉を。

「大体、釣り合わないなんて……僕のこと、手放す気なんてサラサラないくせに」

「フフフッ、当然でしょ!こんなにも愛してるんだもの」

自己肯定感がとても低かったルカ。
彼は両親を亡くしたばかりのフェリーチェに仕えることになって以降も、自己肯定感は低かった。
悪夢に魘されるフェリーチェを抱き締めて、いつもそばにいたけど、自分の存在が彼女の救いになるはずなどないのだと、永遠に悩んでいた。

そんなルカの名前を呼び、泣きながらでも、ルカを求め、ルカの腕の中でだけ、安心して眠ったフェリーチェはいつしかルカにとっては、可愛い大切な守るべきお姫様、お嬢様になっていった。

明るくあろうとするフェリーチェのそばで、フェリーチェを抱き締めて、泣ける時間を作った。

フェリーチェが笑ってくれるのなら、お菓子作りを勉強したし、フェリーチェが喜ぶのなら、何にでも付き合った。

自然とそういう仲になった後も、最初こそは自分は釣り合わないと思っていたが、直球に直球を重ね、直球で割ったようなフェリーチェの直球の愛の言葉を受け続けるうち、誤魔化していた心の鉄壁は崩れ落ち、とてつもなく強固な自己肯定感が出来上がった。

例え、世界の誰に認められなくても、底辺だと嘲笑われても、フェリーチェが笑ってくれる限り、自分はフェリーチェにとっては特別な存在であることを、疑うことが無くなったからである。

「大好きよ、ルカ」

「僕もだよ」

素直に甘えてくれる婚約者は、今、不安に揺れている。
大切な、向こうで出来た友人を守る為に。
色々と心砕いて、明るく笑って、フェリーチェは向こうの問題と向き合っている。

ボスや麗良さんへの恩に報いるため、友人を助けるため、自分が後悔しないために。

「……愛しているからこそ、あまり無茶はして欲しくないんだけど」

「地下に監禁されていた時のこと?」

「うん。君は心配いらないと言うから、僕も特に何もしなかったけど……心配したんだから」

「それはごめんなさい。でも、周囲を嗅ぎ回って、殺されなかったのは幸運じゃないかしら?沙耶達には言葉濁して伝えているけど、向こうは本当に神経質というか……ピリピリしていたもの」

「悪事がバレるから?」

「怯えるくらいなら、下手なことをしなければいいのにね」

本物の悪党であるふたりは、肩を竦めて笑う。

「こっちにいる間もね、独自に調べさせたの」

「ふーん、それで?」

「凄いわよ。うちの子ってば、とっても優秀なの」

「そりゃあ、フィーの手足だから……それで?向こうの状態は、どんな感じなの?」

「フフフッ、それがね、すごく怒っているみたいよ。そして、焦ってる」

「へぇ?」

「だって、あの天下の御園家の当主様が、沙耶に惚れているんだもの。簡単には、手が出せないでしょ?そして、彼らはあの組織に比べると、何倍、何十倍もの、ルートを持っているから、御園家が本気を出してしまったら、きっと、ひとたまりもないわ?」

「でも、一気に潰せない理由があるのでしょ?」

「そうなの。既に実験とかで犠牲になってしまった人が何名か居て、その人達を目覚めさせる方法を見つけなければならないけど、正攻法じゃどうしようもない中、沙耶と出会った相馬はその組織にたどり着いた」

「表向きは普通の会社の振りをしているから、気づけなかったって話だったよね」

「そうなの。─相馬が怒るとね、きっと、とっても大変なことになるわ?」

フィーは悪戯が成功した子供のように、どこか他人事のように微笑みながら、遠足を待ちわびる子どものように足をバタバタさせる。

それをルカは愛おしそうに眺めながら、まだ見ぬフィーの心を奪った沙耶という人物について思いを馳せた。