世界はそれを愛と呼ぶ



「相馬から聞いたのかしら?番制度の穴」

「えっと……相馬の両親は従兄弟同士で、だからこそ、代償が生まれなかったと」

「ええ、そう。そうなの。そこが問題だったの」

「……」

「お父様もお母様も、同じ直系の子供だったの。同じ、お曾祖父様から生まれた父親を持つ子ども。私達の祖父である陽介を父に持つお父様と、その異母兄であった方を父に持ったお母様。勿論、お曽祖父様と番の間に生まれた陽介お祖父様の方が、御園家の人間としての力は強かったわ。それでもね、お母様も御園家の直系の血を引いていらした。そして、次期、鬼帝をその身に宿してしまった。……昔から言い伝えで、姫は鬼帝を産むべきではない、と、忠告されてきたのに」

お姉さんは1冊の本を取り出して、「複製品だけど」と、見せてくれた。

それは、昔の御園家の人が遺した日記だと言う。
彼女が指差したところには、生涯独身を貫いた鬼帝の姉であり、その代の姫巫女であったものが、次期鬼帝を産み落としたと、書いてあった。
─そして、気が狂い、子を捨ていなくなったとも。

「これは」

「私が見つけたものよ。…誰にも伝えてはいないけど」

「……」

「伝える勇気がね、なかったの。『どうして』と泣いていた相馬に今更、伝えられない。『運命だから、あなたはお母様に愛されなかったのよ』なんて」

拳を強く握って、ぽたぽたと涙を流すお姉さん。

「……どうして、姫巫女が次期鬼帝を産んではならないのですか?どうして、気が狂うなんて」

「そうね。……多分、守られないから」

「守られ……」

「姫巫女はね、鬼帝に守られるべき存在なの。愛されて、守られて……血肉までが貴重な私達を、唯一守ることが出来る鬼帝。鬼帝の傷を唯一、治すことが出来る姫巫女。御園家初代夫妻は、そういうふたりだった」

「……」

「でもこれは、血で受け継がれてしまった。姫巫女は直系の女性に、鬼帝は直系の男性に。近親相姦なんて、昔はしていたみたいだけど。今はできないでしょう。御園家を守るのならば、ううん、今の倫理観なら有り得ない話。大体、別に番が見つかって、その定めに従わなければ、大きい代償が伴う私達にとって、近親相姦なんて選択肢にない。……夫婦として、番として、鬼帝と姫巫女があれるのならば、それが理想なのでしょうね。でも、そんなのは、現実的に無理な話。実際、殆どは兄弟で産まれてくるんだもの」

大きな代償が伴う場面で、繰り返されてきた。
相馬の番は沙耶だけど、姫巫女はお姉さん。
どちらを選ぶのか……このような選択を、御園家は繰り返してきたのだ。