世界はそれを愛と呼ぶ



「その無礼者が、四季の家に繋がっている可能性が強くなったのでしょう」

綺羽がそう言うと、仁成は深く頷いた。

「─恐らくね。先日、常磐仁(トキワ ジン)様が、急に帰られてね。恐らく、御園家から連絡がいったのだろう」

「仁様が?」

常磐仁─夏の家・常磐家現当主の第二夫人との御子であり、年齢は仁成よりも年上だ。

あの家の中では良心と呼ばれるほど、とても朗らかで優しい人であり、家に愛想を尽かして家を出たものの、第三夫人とその子が残されている現状を気にし、定期的に、この国に戻って来ていることは知っていた。

「仁様は養子を取られ、海外で生活をされていましたよね?」

「ああ。しかし、御子息を連れて戻られてね。第三夫人の身の潔白さや、御子のことを話してくださった」

「常磐の隠された後継者のことを?」

「ああ。あの家は外から探るには不可能なぐらい、不透明だからね。彼によれば、その後継者の男の子が、宮君─【朱宮(シュグウ)様】の可能性があると。しかし、綺羽に比べると、とても能力が低いらしく……御園家が介入するにあたり、その方面を少し調べようと帰ってこられたと話しておられた」

「第三夫人の産んだ、後継者が【朱宮】……?」

「確か、綺羽の1つ下だよ」

正直、綺羽の中では何歳なのか、顔や癖など何ひとつ思い浮かばないくらい、知らない相手である。
引きこもりで、気弱だと聞いたことはあるが、思い返して全く顔が思い浮かばないのは、少々問題があるのではないだろうか……とまで考えて。

「ちょっと待ってください。1つ下って……16歳、」

「そういうことになるね」

「……仁様、お幾つでした?」

「確か、五十は超えられていたよ 」

「…………気持ち悪いですね」

率直な感想しか出てこない。
腹違いとはいえ、仁様の弟君だろう。
ありえない年齢差に目眩がするが、

「仕方がない。第三夫人自体、仁様より十歳近く年下であられるからな」

下卑た笑みを浮かべていた、無能の顔を思い浮かべ、気持ち悪くなって吐きそうになるのを堪える。

「それが罷り通るこの国の法が気持ち悪くて敵いませんが、とりあえず、考えるのを辞めます」

「それがいいね」

綺羽は一度、咳払いをして。

「─まず、番様の方が重要ですから。我々が斃れなければ、夏も、秋も、冬も、再び、生まれます。滅ぶ道を辿ることになっても、御園家の方々は迷惑を被ることはありませんよね」

「そうだね。創造主である我々【青宮】がいる限り」

父の許可を得た上で、招待状を破く。
すると、招待状は解けるようにバラバラとなり、別の形を作り始め、それは、ひとつの手紙となる。

「相変わらず、密書を送られるのが上手だね」

「相馬様からの招待状に見せかけ、このような細工……総一郎(ソウイチロウ)様も、相変わらずそうで」

手紙を開くと、下の方に小さく【気付いてくれたこと、礼を言う。パーティーの件は嘘では無いから、準備をしておくように】と書いてあり、恐らく、本物の招待状はこの後届く予定なのだろうな、と、綺羽は上から読むことにした。

そして、内容に思わず、手を止めてしまう。

「綺羽、?」

心配そうな父に、綺羽は手紙を差し出した。

「お父さん、私、ちょっと行ってくる」

「……なるほど」

最近、社会で幅を利かせていた会社が隠れ蓑。
総一郎様からの指示が的確に書かれているそれらに、怒りを我慢できない綺羽を見て、父は冷静に。

「一度、御国(ミクニ)の当主様に会いに行きなさい。そして、何名か同行者を」

「ひとりではダメなの?」

「ダメだよ。助けられるものは全て、君は救いたいのだろう」

父はそう言いながら、綺羽の手を握り。

「君は強い。自慢の娘だ。だが、まだ未成年の、可愛い僕の娘であることは忘れないで」

綺羽が父の優しさに素直に頷くと、父は微笑んで。

「じゃあ、気を付けて行ってらっしゃい」

と、綺羽の頭を撫でてくれた。