☪︎
「─招待状、相馬様から?」
ぺらっと、裏返した彼女は簪を頭から引き抜いた。
すると、纏められていた長い髪が宙で広がり、ふわり、と、毛先が彼女の腰あたりにつく寸前で、花々が床に舞い落ちる。
「おや、今日は桜だね」
招待状を手渡してくれた父・仁成(ヒトナリ)は優しく目を細め、いつも通りの風情を楽しむ。
「この時期に珍しい」
「何か、お考えがあるのだろうね」
父は花弁をひとつ手に取りながら、
「そろそろ、夏、秋、冬の終わりじゃないかい?」
と、微笑んだ。
「張り合いがなかったから、良いのでは?」
「フフッ、我が娘は素直だねぇ」
─そんな会話が繰り広げられるそこは、春の家・華宮家の一室。
「強欲なものは、何を犠牲にしても、身の丈に合わぬものを手に入れようとするから、たちが悪い」
「そうだね、綺羽(イロハ)」
華宮綺羽─……華宮家現当主・華宮仁成の唯一の娘であり、【青宮(セイグウ)】、春の家でのいちばんの強さを誇る名を持つ17歳である。
「他の宮は、どこにいるんだ」
夏、秋、冬にも勿論、綺羽と同じような肩書きを持つ人間は存在しておかなければならない。
血筋で継いでいく家の為、基本、前任者が役目を果たせなくなったタイミングで、次の子が産まれてくる。
産まれてくるルーツは、直系だ。
あくまで基本、の話ではあるが、それでも、春の家を除いた三家ではその誕生を聞かない。
それどころか、宮の名を持つものが当主となる宿命の中、三家の現在の当主は“無能”ときた。
綺羽の場合は未成年であること、綺羽自身がまだ望まないことなど、様々な点を考慮し、御園家に申し出たことで、今なおも父が当主を務めてくれているが、父にもしもの事があった場合、後継者は綺羽だと決まっている。
─春の家は、少し前まで荒れていた。
御園家が介入し、闘いの末、仁成と綺羽の元に帰ってきた華宮家当主の座。
祖父が死んだタイミングで、その妹であった大叔母が利用され、食い潰され、その座はその子達に移り、縛られ、神々として祀られ、奇妙な新興団体が誕生していた。
祖父はそれを目論んだ輩に殺害され、それを守り、綺羽の母も生後まもない綺羽を遺し、死んでしまった。
父は穏やかで優しく、怒ることはない。
しかし、御園家に仕える者として、否、大切な家族を奪われたことを黙ってやり過ごすほど、温厚な方ではなく、餌を、罠を作り、待ち続けた。
その結果、徹底的に潰すことに成功し、座を取り戻した訳だが、他の家は華宮よりも闇が深く。
「そろそろ、終わらせようとでも?」
「そうだね。……密偵、というか、相馬様が独自で遣わせて下さった使者様によると、相馬様が番様を見つけられたらしい」
「!、それはとてもおめでたいことですね」
綺羽は、両手を合わせて喜んだ。
孤独で、強い力を有するがゆえに、心無いものに傷つけられてばかりだった帝王様は、漸く。
綺羽が嬉しさのあまり、ため息を零すと。
「─以前、話をしたことを覚えているかな」と、父は黒橋家が治めている、国が見捨てた土地の話をした。
その話は有名な話である。何を今更……と思った綺羽に、仁成は教えてくれた。
相馬様の番様が、黒橋家の一人娘で、綺羽と同い年─……幼い頃からずっと何者かに狙われ、怪文書をはじめ、番様を追い詰める行為が確認されていること。
「─招待状、相馬様から?」
ぺらっと、裏返した彼女は簪を頭から引き抜いた。
すると、纏められていた長い髪が宙で広がり、ふわり、と、毛先が彼女の腰あたりにつく寸前で、花々が床に舞い落ちる。
「おや、今日は桜だね」
招待状を手渡してくれた父・仁成(ヒトナリ)は優しく目を細め、いつも通りの風情を楽しむ。
「この時期に珍しい」
「何か、お考えがあるのだろうね」
父は花弁をひとつ手に取りながら、
「そろそろ、夏、秋、冬の終わりじゃないかい?」
と、微笑んだ。
「張り合いがなかったから、良いのでは?」
「フフッ、我が娘は素直だねぇ」
─そんな会話が繰り広げられるそこは、春の家・華宮家の一室。
「強欲なものは、何を犠牲にしても、身の丈に合わぬものを手に入れようとするから、たちが悪い」
「そうだね、綺羽(イロハ)」
華宮綺羽─……華宮家現当主・華宮仁成の唯一の娘であり、【青宮(セイグウ)】、春の家でのいちばんの強さを誇る名を持つ17歳である。
「他の宮は、どこにいるんだ」
夏、秋、冬にも勿論、綺羽と同じような肩書きを持つ人間は存在しておかなければならない。
血筋で継いでいく家の為、基本、前任者が役目を果たせなくなったタイミングで、次の子が産まれてくる。
産まれてくるルーツは、直系だ。
あくまで基本、の話ではあるが、それでも、春の家を除いた三家ではその誕生を聞かない。
それどころか、宮の名を持つものが当主となる宿命の中、三家の現在の当主は“無能”ときた。
綺羽の場合は未成年であること、綺羽自身がまだ望まないことなど、様々な点を考慮し、御園家に申し出たことで、今なおも父が当主を務めてくれているが、父にもしもの事があった場合、後継者は綺羽だと決まっている。
─春の家は、少し前まで荒れていた。
御園家が介入し、闘いの末、仁成と綺羽の元に帰ってきた華宮家当主の座。
祖父が死んだタイミングで、その妹であった大叔母が利用され、食い潰され、その座はその子達に移り、縛られ、神々として祀られ、奇妙な新興団体が誕生していた。
祖父はそれを目論んだ輩に殺害され、それを守り、綺羽の母も生後まもない綺羽を遺し、死んでしまった。
父は穏やかで優しく、怒ることはない。
しかし、御園家に仕える者として、否、大切な家族を奪われたことを黙ってやり過ごすほど、温厚な方ではなく、餌を、罠を作り、待ち続けた。
その結果、徹底的に潰すことに成功し、座を取り戻した訳だが、他の家は華宮よりも闇が深く。
「そろそろ、終わらせようとでも?」
「そうだね。……密偵、というか、相馬様が独自で遣わせて下さった使者様によると、相馬様が番様を見つけられたらしい」
「!、それはとてもおめでたいことですね」
綺羽は、両手を合わせて喜んだ。
孤独で、強い力を有するがゆえに、心無いものに傷つけられてばかりだった帝王様は、漸く。
綺羽が嬉しさのあまり、ため息を零すと。
「─以前、話をしたことを覚えているかな」と、父は黒橋家が治めている、国が見捨てた土地の話をした。
その話は有名な話である。何を今更……と思った綺羽に、仁成は教えてくれた。
相馬様の番様が、黒橋家の一人娘で、綺羽と同い年─……幼い頃からずっと何者かに狙われ、怪文書をはじめ、番様を追い詰める行為が確認されていること。


