世界はそれを愛と呼ぶ




「許可を取りに来たんですか!?」

「お、おお……」

「氷月が!?」

─相馬は、驚きを隠せない。

「……そんなに?」

「いや、だって、あの子ほど自由人を見たことないというか……幼い時は公共の道路で急に寝るので、常に護衛が抱えていました。水樹なんて急に走り出して、よく行方不明になっていましたし」

とんでもない双子の成長ぶりに、感動する。

「良かった、許可取ってて……取ってなくて、健斗さんが開通を望んでいたら、開通をする他に何をお詫びとして渡そうか悩んだいたんですよ」

「いやいや、そもそも普通の人間が入るには、危険性がある地下やろ?誰も入らんし、要らんし」

「ここら辺の土地、適当に国から買い取ってしまおうかと思っていました。報告聞いた日から」

「それは勘弁してくれ!」

─基本、冷静な健斗さんが本気で嫌がっている。

「……相馬は真面目な顔でとんでもないこと言うから、時折、本気か冗談かわからんくなる」

「土地の件は、望むならいつでも」

「いや、心から遠慮するわ。─うちのお転婆な娘を貰って貰えるだけありがたい……で、そろそろ聞くが、我が家の娘はなんでまた、眠ってるんだ?」

ようやく突っ込まれ、相馬は経緯を説明した。
すると、健斗さんは深くため息をついて。

「……言葉のことはわからんが、やっぱり」

「やっぱり?」

「幼い頃、攫われた時にいた環境かもしれない。その時から、この子は狭いところ、暗いところが特に苦手になって……口には出さないが、震えながら泣き出すようになった。だから、この家はなるべく明るくし、広々とするように手を加えてな」

「だから、少し変な作りだろ?」と、健斗さんは笑う。

言われてみれば、相馬の家でも沙耶が枕元の電気を消して眠ることはなかった。
だから、相馬は沙耶が眠ったあとに部屋を真っ暗にして、沙耶を抱きしめて眠っていた。
朝になると、自動で寝室のカーテンは開くので、自然と太陽光が差し込んで、部屋は明るくなる。

そして、2部屋をぶち抜いているので、当然、相馬の部屋はとてつもなく広々としている。

「ニュースというのは恐らく、久貴(ヒサキ)や朝陽の件だろうな……朝陽の妹を名乗る女が、沙耶に近づいて、最後に自ら……ってのも、事実だから。実際、その言葉の山はこの子がかけられてきた悪意なのだろう」

─そう考えると、沙耶が心を捨てようとする理由がわかる。沙耶は幼い頃、感受性が強い子供だったらしい。

というか、実際、今も強いのだろう。心を、感情を殺す癖がついてしまっているから、気付きにくいだけで。
本当はとても繊細で、泣き虫なのだ。

だから、相馬の前ではよく泣くのだろう……なんて、そんなことを思いながら、寝息を立てる沙耶の目元に触れる。

「……じゃあ、暫くうちの娘を頼めるか?」

「勿論です」

「すまんな。正直、ちょっとこれから忙しくなりそうだから、助かるよ」

「あの資料ですか?」

「ああ。……藤島の調査結果だ」

「藤島……ユイラさんの父君の」

「そうだ。俺が見切りをつけた会社。最近、業績が不安定で、多くの社員が辞めているらしい。その内の数人が、うちに面接に来たと」

この街の端には、黒橋グループの本社とも言える会社がある。そこには大勢の社員がいるが、この街と国が所有する街の境界線に建っているため、かなり大きい会社のビルだが、ひとりもこの街の人間ではない社員は、許可がない限り、街には入ることができない作りとなっている。

それぞれにICカードをタッチして、会社に出入りする仕組みだが、この街側と国所有の街側のふたつの入口があり、相馬はいつも国所有側からお邪魔していた。