世界はそれを愛と呼ぶ

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「─おや、こんにちは」

襟足を伸ばした、明るい茶髪の着崩したスーツのようなものを身につけた男。

相馬が沙耶を抱えたまま、昇降口に降りたタイミングで現れた彼は。

「初めまして。御園相馬くん、だよね?」

優しそうな風貌、若々しい見た目、笑っていない目の奥。─明らかに、この学校の理事長。

「はい」

「だよね。婚約したって聞いた。……沙耶は、また発作を起こしちゃった?」

「はい。なので、今から家に連れて帰って、少し休ませるつもりです。全然、学校にいないけど、互いにそれなりの成績はキープ出来ているので……」

「謙遜しなくても。編入試験は文句なしの満点だったし、この間のテストだって、君は満点だった。─沙耶が問題なく取るのは昔からだけど、うん。いなくなった時は心配したけど、無事に帰ってきてよかったよ」

そう言って、眠る沙耶を見る彼の目は、優しい親戚のおじさんのような雰囲気で。

「……だいぶ、顔色が悪いね。暫く、休ませた方がいいかも。俺が先生達には話しておくから、沙耶のことを頼んでも?」

「勿論です。健斗さんからも任されていますし……何より、大切な婚約者なので」

すると、理事長は笑う。

「……ハハッ、可愛いこの子を大切にしてくれる君に会えた幸運、俺は大事にしたいな」

理事長である彼はそう言いながら、

「今から、何処へ?君の家?」

「一応、その予定ですが……健斗さんには、沙耶を連れて帰ることを連絡しておかなければと」

「健斗のことだから、街中のことは把握しているだろうし、全然黙って連れて行ってもいいと思うけど」

「それでも、連絡しますよ。これは信用問題ですし、健斗さんは健斗さんなりに沙耶を大切にしているでしょう。嫁入り前ですし……不義理なことはしません」

何故か付いてくるので、きちんと伝える。
すると、彼は何故か満面の笑みになって。

「いや〜!健斗が珍しく褒めまくっていたから、権力に屈することがない男が何事!?って、幼なじみ内で盛り上がっていたんだけど、そっか!君はそういう子か!沙耶が選んだ……ハハッ、良い男だな〜!」

何故か、ハイテンション。
術で眠らせているので、沙耶が目覚めることはないが。

「とりあえず、黒橋家に寄りなよ。俺もこれから行くんだ。君が企んでいることも、湊から聞いてるし」

「?、パーティーのことですか?」

「そうそう。会場はどこにする予定だ?」

「一応、向こうのホテルですかね」

「御園所有の?」

「?、はい。何か問題でも?」

歩きながら訊ねると、理事長は腕を組んで。

「招待客を、限定的に宿泊させる」

「はい?」

「湊達が話していた案だよ。四季の家に関する招待客を泊まらせ、サービスの限りを尽くし、その間に見極める時間を作ってはどうかという」

「見極める……」

湊さんと凌さんで話し、何か思うことがあったのだろうか。

「鳳月も呼ぶんだろう?神宮寺も招待される可能性が高いと、慧が話していた」

「そうですね……四季の家を招くからには、それなりの名家も招かなければ、面倒くさいことになります」

「だよね。御園だから。でも、そうなると、君は自由に行動できなくなるんじゃない?」

「ああ、それは、上手くやるので大丈夫です。他の方々にも上手く動いてもらいながら、当主の動きを見極めようと思っています」

「なるほど」

「とりあえず、沙耶の懸念は払ってあげたいので……槙がどこの家の落胤なのかを調べなければと思っているんですが、今派手に動けなくて……」

「え?」

理事長の戸惑った声に、相馬が顔を上げると。

「湊から聞いてないの?槙なら、天ヶ瀬の落胤だよ」

と、当たり前のように返された。