世界はそれを愛と呼ぶ



「俺は何故か、殺されることはありません。貴女を利用するつもりなら、あなたから決して離れることがない俺は邪魔なはずなのに」

「それはっ」

「向こう側には、俺を殺せない理由があるんですよ」

青年は、賢かった。
誰よりも賢く、だからこそ、利用価値も高く。

「貴女をひとりにしません。結婚だってさせません。あなたは俺の恋人です。それを忘れないでください」

青年は少女の両頬を包み込み、ぐっと顔を近づける。

「……一緒に、生きていくんでしょう」

幼い頃、無邪気に交わした約束。
お母さんに守られ、愛されていたあの日。
事故を境に連れ去られた、地獄よりも前の話。

「……っ、」

「心優(ミユ)」

名前を呼ぶと、少女は小さく頷く。

「でもっ、どうすれば」

「どうにでもします。これまでだって、できていたでしょう」

例えそれが、向こうの思惑通りだったとしても。
利用されるだけで、終わらせてなるものか。

「や、夜尋(ヤヒロ)……っ」

「はい」

名前を呼ばれて、青年は微笑んだ。
手を伸ばしてくる恋人を抱き締めて、目を閉じる。

恐らく、彼らが結婚して、子供を作ったとして。……それはそれで、と、研究員たちは考えている。

だから、夜尋を心優の傍から離さず、置いている。
こうして触れ合っていても、何も忠告してこない。

それは間違いなく、夜尋にも何かしらの価値があるからだ。

(……幼い頃、捨てられていたところを拾われた)

美しくて、そして優しいアイラ様。
不器用で、困ったように笑いながら、夜尋を可愛がってくれて、『亡くなった夫がね、お世話は得意だったの』なんて言いながら、慣れない手つきで育児をする様子を支えて、そして、ここまできた。

(俺の宝である前に、彼女は貴女の宝物)

だから、彼女のことは守る。何があっても。
彼女の存在。
─それが、夜尋の唯一無二の生きる意味だから。