世界はそれを愛と呼ぶ

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「……ねぇ、病院に忍び込むには、どうしたらいいと思う?」

「何を考えているのですか」

「ん〜」

「誰か、会いたい人でも?」

「それはいるよ。ずっと言ってるでしょ?─私は早く、お兄ちゃんに会いたいの」

「彼は病院にはいませんが……?」

怪訝な顔をする恋人に、少女は頬を膨らませた。

「そんなことは知ってるもん!」

「じゃあ、何故、病院に……やっと、地下牢から出られたんですよ?また変な動きをして目をつけられたら」

少女は、潤いを取り戻した髪を靡かせて。

「─ねぇ、なんで、あの人達が私をあそこから出したのか、わかる?」

と、彼に問うた。

青年は目を伏せつつ、小さく、頷く。

「私はね、貢物なのよ。私の父方のおばあちゃんが、とてもよく出来た実験体だったらしいの。その上、お母さん側のおばあちゃんは、憎らしい女王にとっては憎らしい存在。その血を引く、私……フフッ、不幸にするには、好都合の存在ってことよね」

その場でクルクル回りながら、明るく振舞っている。
でも、彼女にはゆっくりと、その時が近付いて。

「……昔、ここに来る前にね、多喜子おばあちゃんが言っていたの。お母さんにはね、双子のお姉さんがいるんだって。黒髪で、お母さんと同じようにとても可愛くて、綺麗な人」

「……」

「会ってみたいなぁ」

少女には、家族がいなかった。
母親と引き離され、母親が眠りについてからずっと。
少女は青年とずっと、監視下の中で生きてきた。

「外に出て、少しの間、施設の中だけ自由な時間」

少女は、色んな話を聞いた。
自分のこれからの未来の話、とか。

「……地下牢にいた時みたいに、他の実験体として集められた人たちをもう助けられない」

少年は少なくとも、三人、外の世界へ連れ出すことに成功した。
実験体として変えられた身体は力強く、足早く、青年と少女を、外の世界へと導いた。

「病院へ行けば、会えるでしょ?」

先日、口の軽い研究員たちが話していた。
実験体Kの現在状況─昏睡状態で、日に日に弱体化しているらしい。

「……会えたとして、どうするのです」

「謝るの」

「……」

「結婚させられたら、もう二度と会えないじゃない?」

少女の役目は、力の強い子を産むこと。
実験体Kもその目的と、他の実験体を生み出すための糧として攫われてきた。

「っ、なんで諦めているんですか!」

「だって、私が従わなかったら、おじいちゃんと多喜子おばあちゃんがどうなるか……」

「お二方がそれを望んでいるとでも!?」

「それでも!!」

少女は、青年に負けじと声を張り上げた。

「……それでも、お母さんもあの人達が管理してるの」

「っ」

「私は本来、産まれてくる子供じゃなかった。なら、わかるでしょ……、わかって」

青年は首を横に振る。─わかってたまるか。

「俺は認めません」

「っ、」

「絶対、貴女を連れ出します」

見張りがいるかもしれない中で危険な発言をする、少女の初恋、唯一の家族、大好きな人。