世界はそれを愛と呼ぶ




「……同時進行で、工事現場?の火災事故の記事、道路で交通事故の男性1人死亡、崖から車が転落し、女性が1人亡くなって……ニュース映像と、キャスターの声がぐちゃぐちゃに混ざりあ合う中、響く『あんたさえいなければ』『気持ちが悪い』『生まれて来なければよかったのに』……『お前のせいで、また人が死ぬ』とか、でも、最後はそんな複数の音声が重なり合ったような不協和音で、相馬が言うんだ。『俺の目の前から永遠に消えてくれ』……その言葉を最後に、彼女は殺される」

「……そう、タチの悪い夢だな」

兄さんは淡々としているが、明らかに怒っている。
彼女をそこまで追い詰めているもの……彼女が的確に夢を見るのは、彼女の被害妄想が強いから?

兄さんが彼女と関わるようになって、彼女に近づく怪しい影は全部、兄さんが処分しているのに?

「─相馬、早く契約を結んでしまえ」

薫が少し考えた後、そう言った。
兄さんは少しだけ視線を動かして、薫を見る。

「完全に、沙耶を支配してやれ。……壊れる前に」

薫の言葉は、間違っていないのだろう。
でも、多分、兄さんはそんなことは望んでいなくて。
する気があるなら、早めにやっているはずだ。
こんなにも慣れた手つきで、パニックに対処するんだから。でも、それをしていないのは─……。

「─蒼生、悪いが、少し体調が戻ったら、今の沙耶を見てくれるか?夢を見なかった朝はいつも、穏やかで優しい夢を見た気がするけど、何も覚えていないという」

「……ん、」

「早速、無理させて悪いな。真姫のために呼んだのに」

「や、大丈夫……初めてだったから、ちょっとびっくり……というか、うん、真姫いるし」

「……俺が言う台詞じゃないだろうが、距離の詰め方がおかしくないか?」

また、真姫に寄り掛かる蒼生を見て、素直な感想をぶつける兄さん。
確かに、沙耶との関係的に兄さんが言えたことじゃないけど……。

「─秋の子だから?すごく調律しやすくて」

蒼生は味をしめたように寄り掛かり、真姫は真姫で微笑んで、蒼生の頭を撫でる始末。

(お互いが距離感バグってると、一周まわって解決するんだな〜)

なんて思いながら、のほほんとしている場合でもないのだけど。

「……薫」

「なんだ」

「契約は……もう少しだけ、待ってくれ」

「何で」

「希雨の件が解決していない。時間もない。だから」

眠り続ける、従姉。
残り時間はあと、3ヶ月ほど。

「─兄さん、陽向さんに状況報告しておくね」

「氷月」

「あと、叔母さんから連絡来てる」

「……」

兄さんは黙り込んで。
ここに来るまでは、仕事に忙殺されていて。
ここに来てからは、取り巻く陰謀に頭を痛めている。

「兄さん」

水樹は相馬に近づき、しゃがみ込んだ。

「希雨の件があると、沙耶と契約できないのはどうして?」

御園家の呪い─番制度には、2種類ある。
ひとつは心身を共にする、本来の制度だ。
こちらは番が死亡した場合など、もろに影響を受け、御園の人間は死に至る。

もうひとつは、婚約などの際に交わすもの。
互いの感情の共有を行うもの─相手が心痛めていると、刻印の部分が痛むなど─であり、それを交わした場合、御園の人間は体のどこかに、その刻印が現れる。

なので、運命の相手ではないが、愛し合っている場合、刻印だけ結ぶケースも過去にはあった。
ただ、刻印は互いに愛し合っていることが条件なので、互いの心に何かしらの影があれば、結ばれない。

結ばれてしまえば、御園の加護が得られる。
普通の人間であれば致命傷でも、助かる確率が上がる。
だからこそ、何かあっても大丈夫なように、薫は刻印契約を結んでおくように言うのだ。

大抵、運命の番を見つけた御園の人間は両方を交わすため、祖父母は勿論、伯父伯母も、どちらの契約も結ばれているはずである。