世界はそれを愛と呼ぶ

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部屋で話し合いをしていると、相馬兄さんが急に何かに反応して、急に部屋を飛び出した。

何事かと思って、皆で後を追うと。

「い、や、っ、」

屋上でお弁当を食べていたはずの沙耶が地に突っ伏すように、耳を塞いで、頭を抱えて、全身を震えさせて、泣きながら、丸まっていた。

─パニックを起こしていることは、誰の目に見ても明らかで、千歳が泣きそうな顔でそれを見つめる柚香に駆け寄っていく。

沙耶に触れていた蒼生は顔を歪めていて、兄さんはすぐに沙耶の元へ走り寄り、沙耶が蒼生を振り払う。

桜を抱き締める薫、澪に寄り添う光輝、氷月は振り払われ、同時に青ざめている蒼生に駆け寄って、何があったのかを聞き出し始めて。

兄さんを見ると、兄さんは沙耶の背後に回り込み、慣れた様子で沙耶を眺め、地に片膝をついて。

「あ……ぁ、やだっ……ごめんなさい、ごめんなさい……良い子にする、良い子にするからっ、」

何を見ているのかわからない沙耶に腕を回し、

「─……沙耶、深呼吸」

と、彼女の耳元で囁いた。

呼吸がしやすいように顎を上げて、

「良い子、良い子」

と、甘やかして。
それはどう見ても、繰り返されてきた行為。

次第に、沙耶の身体から抜けていく力。
震えが止まり、沙耶が兄さんの腕の中に落ちて、それを受け止めて笑う。

「おかえり」

その優しさは暖かく、そして、眩しかった。
沙耶は謝り倒し、泣いて、それを穏やかに、優しく受け止める兄さんは微笑んだまま、抱き締め、甘やかして、想いを伝えあって。

最終的に、沙耶は兄さんの術で強制的に眠った。

「……というのが、定期的に起こる」

沙耶が寝た瞬間、彼女を抱えて冷静に言い放つが、こちらとしてはそれどころじゃない。

「いや……待ってよ、想像以上だよ……」

澪が泣きながら、震えている。
それを合わせて、

「本当だよ。ここまで酷いの、初めて見た……」

と、蒼生も真っ青。
真姫が駆け寄って、そんな真姫を抱きしめる蒼生。

すごい。蒼生の遠慮のなさ。真姫が真っ赤じゃん。

「あー……綺麗」

情報量が多かったのか、辛そうな蒼生。
それを見た真姫は恥ずかしさに少し震えながら、大人しくするから、本当に良い子である。
(出会って数日の男相手に)

「─沙耶のそれ、なんなんだ」

「わからない。夜、眠っている時も急に起き上がって、同じ現象が起こる。覚えていたことはないがな」

「何がそんなに彼女を追い詰めている?」

「さあ?そこは蒼生に聞くしかないけど……」

蒼生を見ると、片手あげて。

「ちょっとだけ待って……吐きそう……」

「そんなに酷いのか」

薫が険しい顔をする。その横で、桜がハンカチを手渡すと、それで口元を押えながら。

「……色んな場面があったけど、どこかから聞こえる断末魔と、複数の存在否定の言葉、目の前で血だらけになった女性が手を伸ばしてきて、『あなたのせいで』とか、『美しい花嫁に仕上げるつもりだった』とか、前情報で貰っていた、兄、両親、黒宮家の人間からの、『あんたさえいなければ』とか……極め付けは、相馬の姿をした何かが、彼女を殺した」

兄さんの顔は険しいが、大体のことは気付いていたのか、何も言わず。