世界はそれを愛と呼ぶ




「─……沙耶、深呼吸」

突然、空が見えた。喉に、空気が入ってきた。
喉元に手が、顎を後ろから誰かに持ち上げられて、視界が、息苦しさが。

誰かに寄りかかって、言われるままに深呼吸して。

「良い子、良い子」

耳元で聞こえる、落ち着く声。─相馬の、声。

音がどんどん入ってくる、取り戻されていく。
瞬間、身体から抜ける力。
受け止めてくれた相馬は、膝をついて、崩れた沙耶を腕の中に留めたまま、見下ろして。

彼越しに見える太陽は、空は、眩しくて。
底なし沼から抜け出せたような感覚に、沙耶の頬に涙が一筋流れ落ちた。

「おかえり」

優しい表情で、微笑む貴方。
夢の中とは違う、暖かくて優しい手。

「っ、ぁ……っ、ご、ごめ、」

「ん〜?なんで謝るの」

「わ、私」

「大丈夫。怖かったな、もう大丈夫だから」

力が入らない中、振り向こうとした沙耶を支えてくれて、そのまま、正面向かせてくれて。

「大丈夫。もう、怖いものはないよ」

ぎゅうっ、と、抱き締めてくれる。

「良い子にならなくていい。もう充分、沙耶は良い子。痛いのも、怖いのも、暗いのも、全部ないよ。大丈夫、大丈夫だよ」

後頭部を撫でられて、触れる頬が存在を証明するように。

「さーや」

引き離されて、額が合わさる。
視線が間近で絡み合い、彼の目が細まる。

「今日も好きだよ、愛してる。沙耶は?」

「っ……、す、好き……大好き、相馬」

「うん」

「こ、怖い夢、あのね、最近、おかしいの……」

「うん」

「ごめんなさい……ごめ……」

「謝らないの。悪いことはしていないんだから」

トントン、と、背中を叩かれる。

「大丈夫だから、少し眠りな?“かけてあげるから”」

それは、魔法の言葉。
頷くと、彼が「おやすみ」と囁いてくれて、それで、私の意識は今日もまた、遠のいていく。