世界はそれを愛と呼ぶ



「……ここまでのお人好しも初めてのケースだけど」

柔らかく微笑んで、真姫の手に触れる蒼生。

「申し訳ないけど、沙耶、君に触れるのは、相馬の許可がなくちゃダメかな」

蒼生の申し訳なさそうな顔に、「それもそうね」と頷く澪と、「勝手に自分で苦しい道を選んじゃダメ」と、言ってくれる桜。

「…………私、耐えられないかな?」

「耐えられないから、覚えていないんじゃないの?」

「……」

「言っておくけど、相馬は君にそんな顔をさせたくて、俺を呼んだわけじゃない。君が大事だから、俺を呼んだの。それは覚えていて」

優しい眼差し。多くを見て、聞いてきた人。
相馬の周囲は、優しい人でいっぱい。

「………………怖いんだ、私。ずっと宙ぶらりんで、自分を責めて、殺していた日々は辛くて、泣いて、ずっと終わりが見えなかった。でも、相馬と出会って、甘やかされて、凄く大切にされて、それから今度はずっと真綿で首を絞められているみたいで」

両手で顔を覆って、頭の中に浮かぶものをひとつ、ひとつ、言葉にしていく。

「私の存在が、優しい相馬の足を引っ張らないか。私の存在が、大切なみんなを傷付けないか。私の存在が、誰かを犠牲にしないか。─そんなことを、ずっとぐるぐる悩んでいる自分のことも許せなくて」

相馬に全部、吐き出した。
幸に言われて、普通の高校生になろうと思った。
抱き締められて、一緒にいることを約束して、あの日だって一緒に眠ったし、相馬は沙耶が望めば、全部応えてくれる、甘やかしてくれるから。

─これを本当に正しいと信じていいのか、受け取っていいのか、甘え続けていいのか、自分にできることは無いのか、色々と考えすぎて眠れなくて。

「……ひとりで眠ると、夢を見るの」

身体が、震え出す。どうして、どうして、どうして!!!!
強くなることを、生きていくことを望んでるだけ。
被害妄想、悲劇のヒロインぶって、何が楽しいの。

『─ほら、おまえの罪がそこにある』

『ひとりで幸せになるつもりか?』

『人を殺しておいて?』

『羨ましいなあ、怨めしいなぁ』

『全部、全部、全部!!お前のせいだ!!』

夢の中で、自分が叫ぶ。
幼い自分が、頭を抱えて、牢獄のような─……。

「─蒼生、沙耶を“見て”!」

……親しい人達が、私に言うの。

『あなたのせいで』

『お前にもう用はない』

『美しい花嫁に仕立てるつもりだったのに』

『穢れてしまった。ああ、悲しいなぁ。悲しいなぁ』

『あなたなんかいらない』

『消えてくれ』

兄が現れて、

『おまえがいなければ』

『お前さえ生まれて来なければ』

両親が、フィーが、黒宮家のみんなが、

『消えろ』

私を、指を差して。

そんなこと言うわけないって、頭ではわかっているはずなのに。

『俺の目の前から永遠に消えてくれ』

─最近、最後はあなたがね、私を殺すの。
あなたになら、殺されてもいいと思うのに。

夢の中の私は泣いていて、『やめて』と叫んで、動けなくなって、泣き喚いて、そうして、そうして─……。

「い、や、っ、」

否定して欲しい。夢なのだと。
現実じゃなくて、今見てる現実は夢じゃなくて。

私を愛してくれる人は、いるって。
生きていていいって。だって、頭が本当におかしくなりそうで。

どうしてこんなに弱いの。どうして強くなれないの。

耳を塞いで、頭を抱えて、そのまま座り込んで。
全身を丸めるように。涙が溢れて。
呼吸が苦しくて、誰かを、払い除けて。

「あ……ぁ、やだっ……ごめんなさい、ごめんなさい……良い子にする、良い子にするからっ、」

すぐに支配される。怖い怖い怖い怖い怖い。
相馬といる時は、こんな夢、見ないのに。
最近、昼間にも入ってくる。
フラッシュバックのように、急に、今みたいに、嗚呼、どうすれば落ち着く?どうすれば落ち着ける?私、いつも、どうやって─……。