「陽向さんだって。陽向さんが、術?の展開とか見せてくれたらしくて、確かに術符みたいな物が、円になってクルクル宙で回ってたなぁって」
「なんでそんなに明確に覚えてるの……?」
「その件がきっかけで、私が沙耶を大好きになって、私が私になったから!」
「……」
眩しい笑顔を向けられて、思わず、顔を覆ってしまう。
「怖いものなのか、どうなのか。綺麗だと感動していいのか、泣いていいのか、笑えばいいのか、何も分からなくて。大人の機嫌ばかり伺っていた私に、沙耶は『綺麗だね』って笑いかけてくれたんだよ。『怖くない?』って大人に聞かれても、『知らない世界を見れて嬉しい、貴方の世界を見せてくれてありがとう』なんて、7歳児が言えることじゃないよね~」
「???」
─どうしようか。全然、記憶にない。
「私の不安にもね、『人によって、見て感じて考えることは違うものだから』って言ってくれた」
「……」
ここまで来ると、覚えていない自分に引く。
「あの日から、親の目線では私は要らなかったかもしれないけど、健斗さんや沙耶たちが大事だって、ここにいていいんだよって、言ってくれる限り、私は大切な存在なんだって思えるようになったんだから」
にっこにこの笑顔で本当に申し訳ないが、本当に覚えて無さすぎて、逆算して……。
「─あ、もしかして、誘拐前? 」
「…うん、そう」
沙耶が聞くと、少し寂しそうな顔で頷かれてしまった。
「だから、あれはすっごく怖かった」
「あ、あー……ごめんね?」
「ううん。沙耶は悪くないもの。黙って消えたことは、今でも忘れられないくらい腹立たしくて、悲しかったけどね」
そう言いながら、ぎゅーっと抱きついてくれる親友。
覚えていないけど、行方不明になって、気付けば、道端に捨てられていたらしい沙耶。
何も覚えていないのに、全てが怖くて。
何も覚えていないのに、涙が止まらなくて。
何も覚えていないのに、そのはずなのに、その日からどんどん私は壊れていったという。─変な話。
「……柚香は、沙耶が大好きなのね」
「うん、もちろん」
会話を聞いていたはずなのに、桜が優しい声でそう言ってくれて、柚香も即答してくれて。
大切に思われている、それは嬉しいことだなって、喜べるようになったのは、相馬のおかげ。
「…………蒼生さん」
「蒼生、でいいよ」
「蒼生」
「なあに、沙耶」
沙耶が手を差し出す。
「薫は、真姫や何かのためにあなたを呼んだのかもしれない。あなたの能力を利用するようで気は引けるけど、私もお願いしたいの」
「……」
覚えていないの。なのに、苦しくて仕方がなくて。
涙が出て、発作を起こして、悪夢は終わらない。
なのに、本当に何も思い出せないの。
でもそれを、貴方なら。
そう思いながら、彼の顔を見る。
「……見るのは、構わないよ」
「本当?酷い映像かも、だけど」
「それは、慣れているから……でも、そういう任務をこなす時はね、俺、話しながらするんだ。状況説明しながら、メモを取って。ゆっくりと復元していく」
「……ええ」
「その作業でね、大抵は相手が壊れそうになるよ。真姫の件を受け入れたのは、彼女は耳が聞こえないから。どれだけ話しても、彼女は大丈夫だろうって」
申し訳なさそうな蒼生の顔を見て、蒼生の能力を通じ、真姫に伝わったのだろう。
首を横に振り、そっと、蒼生の肩に触れる。


