世界はそれを愛と呼ぶ




「ふたり、数年前にいつか授かれるといいな~っていう、依織の気持ちを尊重した甲斐が決断して、体外受精卵?を保管していたとかで……そこら辺の医療的な話は全然わかんないんだけど、病院によっては、最長6年?とか冷凍保存できるらしく……」

「へぇ……?」

「それを、甲斐がいない時にこう、手術で……?」

「おじさんが反対してるのに?執刀医は?」

「大おじさん」

「……」

桜が言葉を失っている。それを眺めていると、

「大おじさんってね、おじさんのお父さんのことなの。つまり、私達の幼なじみのおじいちゃん」

「……」

それは、言葉を失うものである。

「……揉めたんじゃない?」

「それはもう。でも、『終わり良ければ全て良しでしょ。まだこれからだけど……喜んでくれないの?』っていう、依織の言葉で終結」

「相変わらず、強いわ……依織……」

「でも、それはそれとして、甲斐には色々とお説教されていたけどね。まさか、お腹切って施術して、その跡を、御園家の力で無かったことにするなんて、力業をするとは、誰も想像してなかったみたい」

「というか!そんな危険なこと、誰が手を貸したの?御園のメンツ的に、誰も手を貸さなさそうだけど?」

「千華(チカ)さんがね」

「……」

二度目の、桜が言葉を失う場面である。
片手で額を押さえ、頭を抱える姿でも可愛い。

「千華さん……失踪してたんじゃ……」

「なんか、用事があって戻ってきたみたいだよ?」

「帰ってきて、1番にやることがそれ?」

「家が嫌すぎて、逃げ出した人だからね〜」

流石に分からない。
分からないなら、話題に入れないし……とりあえず、空気になっておくか……と思っていると。

「千華さんって、幻の存在だからね!いるうちに会っておかないと!」

と、澪に肩を掴まれた。

「え、え?」

「千華さんってね、自由奔放な人で……その、なんて言うのかな、沙耶は気が合うと思うよ」

桜からそう言われるけど、誰なんだという思いが消えない。その困惑が伝わったのか、

「そっか、成人前に家出したから、あまり社交界で情報が回ってないんだ!」

と、桜は両手を叩いて。

「千華さんはね、相馬の叔母さんなの」

「叔母さん」

「そう。春馬さんの妹。陽向さん達とは、親子ほど離れたいるんだけど、かなり気が強い人で。その上、とても優秀な人だから、確か高校生の時に無言で退学して、無言で外国へ飛び立ったのよね」

「……」

それと気が合うとは?と引っかかりつつも、自分のこれまでを思い返して、強くは言えない。

「数年に一回、ひょっこり帰ってきては、色々とやって消えるのよ。結婚とかはしない主義って言ってたけど、今はどうかしら……聞いていると思うけど、番とか運命とか、そういう関係を嫌がる人でね。ある意味、彼女が居なくなったことで、相馬のお母さんが追い詰められたとも言われているわ。千華さん本人からしてみれば、『和子の弱さでしょう。私のせいじゃないわ。昔から……あの子は運命に囚われていたもの』と言い切って、実の兄である春馬さんの胸ぐら掴んで、陽向さん達に怒鳴り散らかして消えたのが最後かしら?」

「実はね、その後も顔は出していたのよ。桜が知っているのは、それかもしれないけど。千華さん、はっきりとした性格でしょう?ハキハキとしているからこそ、春馬さんの甘さも、家の闇も全部許せなかった。だからって、ひとりで家の運命から逃れるんじゃなくて、『使われる女性』になるのが嫌だっただけだから、外国で仕事バリバリこなして生活しているみたいで」

「本人情報?」

「いや、相馬情報。仲良くしているみたいよ?」

「仲良くしてるんだ……」

「春馬さんたちのことが嫌いでも、相馬達のことはめちゃくちゃ可愛がっているっぽい。『子供に罪は無いから』ってさ」

「やっぱ、言ってることはまともなんだよな〜!御園の中で生きていけないだけで」

黙って聞いていただけだけど、千華さんという人物像が何となく掴めてきて、沙耶は格好いい女性を想像する。