─コンコンッ
その時、扉が叩かれ、「どうぞー」って、幸が言う。
顔を覗かせたのは、こういう時に限って。
「沙耶、どうした。なんで泣いて……」─相馬だ。
「フフッ、ちょっとね、色々と考えすぎちゃっているみたいなの。抱き締めてあげてくれる?」
「考え……沙耶、おいで」
幸が相馬に場所を譲って、相馬が近距離で手を広げて。
なんでか分からないけど、苦しくて。悲しくて。
額を預けて、ぐちゃぐちゃな感情を口にすれば。
「……なるほどなぁ」
髪に指を通しながら、優しい手で頭を撫でられる。
こんなにもめちゃくちゃな感情は、統制できない苦しさは変わらなくて、息苦しくて、相馬の優しさが余計に、沙耶を追い詰めていくのに。
「─じゃあ、沙耶には今度、パーティーに一緒に参加してもらおうかな」
貴方はすぐに、救いあげようとするから。
何も出来ない私を、そうやって甘やかすから。
「あら、パーティーするの?」
「はい。陰謀に塗れたものですけど」
「それはそれで面白そうね」
幸は笑ってる。相馬も、笑ってる。
「……っ、パーティー……?」
「うん。夏の家に探りを入れるためのね」
「探り……」
「俺のパートナーとして、そばにいて欲しいんだ。凌さんも常磐の護衛として参加するみたいだから、幸さんも来てくださいね」
「是非〜と言いたいところだけど、そんなきな臭いパーティーに出るの、凌と湊が許してくれるかしら」
許さないかもしれない……なんて、頭の端で考えながら、相馬の顔を見る。
相馬は変わらず、優しく、目を細めていて。
「……私、相馬の役に立てる?」
「急にどうしたの。ずっと役に立ってるのに」
「一緒にいてもいいの」
「いてくれなきゃ困るし、一生、一緒にいてくれるんじゃないの?」
「っ、不幸にならない?」
「少なくとも、沙耶と違う人生を選んだら不幸になることはわかってるけど。どした?やっぱり、怖い夢見た?……今日は一緒に寝ような」
ぎゅーっと抱きしめられて、優しい言葉ばかりかけられて、どんどん、どんどん……。
「相馬のせいで、ダメ人間になる気がする……」
「ふはっ、なんだそれ。……大歓迎だよ」
いつの間にか、涙が止まった。
幸の方を見ると、優しく微笑み続けたまま、頷かれた。
「怖いことなんてないよ。俺には、沙耶がいてくれる」
「っ、でも、」
「それに、沙耶には俺がいるだろ?」
自信満々に笑われたら、何も言えなくなってしまう。
「愛してるよ。一緒に生きていくために、頑張ろ」
額が触れ、すりっ、と、甘えるような仕草。
幸の前でも躊躇いも恥じらいもないらしい相馬に、小さく頷き返すことくらいしか出来ない自分。
「─じゃあ、早速ドレス決めなきゃね?」
見ていた幸がそう言うと、
「そうですね。とりあえず、デザイナーを呼んで……」
「待って待って待って」
一気に、しんみりとした空気が消える。
涙が引っ込んで、
「え、オーダーメイドするためにさ」
「しなくていいよ!」
相馬のよくわからん貢ぎ癖を止めなくちゃという、本能の方が強かったらしい。
「え、ダメなのか?」
「なんで残念そうなの……」
「着せたいドレス、かなりあるんだが」
相馬はそう言いながら、沙耶の目元を拭ってくれた。
涙が引っ込んで、無くなって。
「……ダメか?」
色々とズルすぎる婚約者に、沙耶は言葉を失った。


