男3人の短い会談の少し前─……。
相馬達と別れ、沙耶の部屋にて。
「にしても、本当に沙耶、綺麗になったね」
そう言ってニコニコ笑う幸は、嬉しそうに頬を緩め。
「華宮家関連のことで心配してたんだよね。凌に聞いていたんだけど、ごめんね 」
優しい手で、頭を撫でてくれる。
「……ちゃんとは、覚えてないの。でも、たまたま、幸とのことを思い出して、華宮家のこととか、なんか急に全部繋がったみたいに頭の中に広がって、怖くなって。泣いちゃってたら、相馬が呼んでくれたんだろうね。ごめんね。迷惑かけて」
「迷惑なんて!可愛い沙耶に会えて、嬉しいよ。色々あったんだから、私のことを忘れていても仕方がないし……何より、沙耶は本当に幼かったしね。フフフッ、ユイラさんと健斗さんの良いところを受け継いじゃって。相馬さんにも大切にされているみたいだし、私、嬉しい」
幸は三十路超えても可愛いままで、いっぱい褒めて、可愛がってくれるところは、沙耶が幼い時から変わってない。
「……ねぇ、幸ってさ」
「なあに?」
「凌と一緒にいたいと思ったの、いつ?」
「えぇ?恋バナ?」
キラキラとした瞳。本当に可愛い人。
「うん、恋バナ」
自分がする側になるとは思っていなかったし、正直、恋バナと言っていいのかも悩むけど。
「一緒にいたいかあ……私、幼い頃に田舎に連れていかれて、そこで凌と出会ったからなぁ」
「付き合い出したの、小学生だっけ?」
「うん。子どもながらにね、ずっと一緒にいたんだけど、凌と出会って初めて、『死にたくないなぁ』って思ったんだ。毎日が楽しすぎて」
「そうなんだ?」
「うん。恥ずかしいんだけど、こんなにも毎日が苦しいなら、誰かを傷つける存在にしかなれないなら、早く消えてしまいたい、死んでしまいたいと思っていたのにね。我ながら、単純だなとは思うけど」
幸は、沙耶の記憶ではずっと笑っている。
幸せだと、そう笑う人。幸せの形のような人。
それを作り上げたのが、幸を優しい目で見る凌。
「沙耶も、相馬さんに対してそう思うの?」
「どうだろ?……死にたくないなぁ、普通に生きたいなぁってのは、最近、思うかな。でもね、たった数ヶ月、なにか大きなことがあったわけでもなくて、傍から見たら、互いの傷の舐め合いにしか見えないかもしれないけどね、ただ、抱き締めたかった。抱き締めて、温もりを分け合って、笑い合うだけで、安心するの」
上手く、言葉で表現することは出来ないけど。
相馬のふとした表情、仕草、瞳に映る感情の、何もかもを全部、抱き締めてあげたいって、泣きたくなる。
それを庇護欲だと呼ぶのかもしれない。
世間一般な、恋や愛じゃないかもしれない。
でも、それでもいいと思えるくらい、心地が良くて。
「そう」
ぽつぽつと言葉を紡いだ沙耶を、幸は優しい顔で見てた。そして、たった一言。
「とっても素敵」
─……誰かに愛されることは、誰かに守られること。
生きていて欲しいと、願われていること。
「……私、勝てるかな」
「……」
「今ね、私がひとりで抱え込もうとしていた全部、皆が暴き始めているの。隠しておきたかったはずなのに、全部全部、相馬が陽の下に晒しちゃう」
「沙耶は、それが嫌?」
沙耶は、首を横に振った。
「嫌というより、怖いの。すっごく怖くて、そんなことする相馬も怖くて、全部嫌だったんだけど……今はね、甘やかされすぎて、ひとりじゃ重いの」
抱えられなくなってしまったの。
全部、相馬が抱えて見えないところに持っていっちゃうから。


