☪︎
「─おかえり」
家に帰ると、出迎えてくれた健斗。
「わぁ、びっくり。どったの」
「全然驚いてないくせ、よう言うわ」
「いや、これでも驚いてるよ。ユイラはとっくに寝てるはずなのに、なんで君が起きてるのか、とかね」
湊は荷物を床に下ろしながら、首を傾げる。
すると、いつも通り、全てを見抜いているような瞳をこちらに向けてきた健斗は。
「─終わったのか?」
なんて、聞いてくる。
「ん〜?どれのこと?」
「はぐらかすな。今更、お前が犯罪者だろうが、なんだろうが、俺達は追い出したりしない。家族だろ」
「……珍しいね、そんなことを」
君が言うなんて。─その言葉は、声にならなかった。
健斗は黙った湊をこれ以上、言葉で責め立てたりはせず、昔、拾ってくれた時みたいに頭をぽんぽんとしてくれた。
「…………罪深いよね。この手が汚れていること、別に後悔したことなんてなかったはずなんだけどな」
湊の罪は、人を地獄へ落としたこと。
端的に言えば、健斗と同じ。
両親を、死に追いやった。
「沙耶を見ているとさ、自分が汚い人間だと思えてくるんだ……本当、今更な話」
年齢のせいか、最近、涙腺が脆くなっている。
玄関で座り込んだ湊の横に、健斗も座り込んで。
「おまえは、もう、十分に頑張ったやろ」
夏川湊─戸籍を抜ける前は、北御門湊。
既に無い、内部が腐り切っていたその家は多くの犠牲者を生み出した。
湊はそんな家の当主と第一夫人の息子として生まれたが、幼い頃からあまり政治などに関心は持つことができず、同時に、大人達が“悪いこと”をしているのだということだけを感じながら、子どもながらに大人の機嫌を損ねないように生きてきた。
湊に求められるのは、身内の、有力な政治仲間の娘を娶り、家の繋がりを強固なものにすること。
父親は母親以外の女を娶り、子を成していたにも関わらず、繰り返す浮気。
ずっと不機嫌な母親の金切り声と、叫ぶ他の夫人達の声。
『あの人は今も、あの女の影を追ってるのよ!!』
そう言ってヒステリーに叫ぶ母を見ながら、息を殺して。
─その中で出会った、ひとりの女の子。
両親を事故で亡くし、政治仲間のとある大人が引き取った子供だった。
その子は明るくて、いつもにこにこ笑っていて、腹違いの湊の兄弟を交えて遊んでいた。
でもある日、その子が訴えた。
『養父が怖い』─その意味が理解できる年齢だった湊は、裏で手を回して、その男を裏切り者とし、断罪した。
もちろん、彼女との縁は切らせるように仕向けてね。
─子どもらしさは、既に中学生の頃には失っていたと思う。でも、彼女がいて、慕ってくれる弟がいて、それだけで幸せだった。
─……母親に、父親の身代わりをさせられるまでは。
「─おかえり」
家に帰ると、出迎えてくれた健斗。
「わぁ、びっくり。どったの」
「全然驚いてないくせ、よう言うわ」
「いや、これでも驚いてるよ。ユイラはとっくに寝てるはずなのに、なんで君が起きてるのか、とかね」
湊は荷物を床に下ろしながら、首を傾げる。
すると、いつも通り、全てを見抜いているような瞳をこちらに向けてきた健斗は。
「─終わったのか?」
なんて、聞いてくる。
「ん〜?どれのこと?」
「はぐらかすな。今更、お前が犯罪者だろうが、なんだろうが、俺達は追い出したりしない。家族だろ」
「……珍しいね、そんなことを」
君が言うなんて。─その言葉は、声にならなかった。
健斗は黙った湊をこれ以上、言葉で責め立てたりはせず、昔、拾ってくれた時みたいに頭をぽんぽんとしてくれた。
「…………罪深いよね。この手が汚れていること、別に後悔したことなんてなかったはずなんだけどな」
湊の罪は、人を地獄へ落としたこと。
端的に言えば、健斗と同じ。
両親を、死に追いやった。
「沙耶を見ているとさ、自分が汚い人間だと思えてくるんだ……本当、今更な話」
年齢のせいか、最近、涙腺が脆くなっている。
玄関で座り込んだ湊の横に、健斗も座り込んで。
「おまえは、もう、十分に頑張ったやろ」
夏川湊─戸籍を抜ける前は、北御門湊。
既に無い、内部が腐り切っていたその家は多くの犠牲者を生み出した。
湊はそんな家の当主と第一夫人の息子として生まれたが、幼い頃からあまり政治などに関心は持つことができず、同時に、大人達が“悪いこと”をしているのだということだけを感じながら、子どもながらに大人の機嫌を損ねないように生きてきた。
湊に求められるのは、身内の、有力な政治仲間の娘を娶り、家の繋がりを強固なものにすること。
父親は母親以外の女を娶り、子を成していたにも関わらず、繰り返す浮気。
ずっと不機嫌な母親の金切り声と、叫ぶ他の夫人達の声。
『あの人は今も、あの女の影を追ってるのよ!!』
そう言ってヒステリーに叫ぶ母を見ながら、息を殺して。
─その中で出会った、ひとりの女の子。
両親を事故で亡くし、政治仲間のとある大人が引き取った子供だった。
その子は明るくて、いつもにこにこ笑っていて、腹違いの湊の兄弟を交えて遊んでいた。
でもある日、その子が訴えた。
『養父が怖い』─その意味が理解できる年齢だった湊は、裏で手を回して、その男を裏切り者とし、断罪した。
もちろん、彼女との縁は切らせるように仕向けてね。
─子どもらしさは、既に中学生の頃には失っていたと思う。でも、彼女がいて、慕ってくれる弟がいて、それだけで幸せだった。
─……母親に、父親の身代わりをさせられるまでは。


