『幸せになって欲しい』
『……』
『幸せになっていいんだよ、沙耶』
大樹の言葉を聞いて、沙耶は目を見開いた。
『空白の期間はあったけど、幼い頃は決して、仲が良かったとは言えないけど。でも、お前が産まれてきた時は嬉しかった。お前が産まれてきた時から、ずっと見てたから知ってる。見てたから、お前が相馬をどう思っているのかなんて、わかるんだよ』
『……っ』
目ん玉が落ちるのではないかと思うくらい、目を見開いて。
『ち、違う。だって、ドキドキとかしないし』
『恋や愛が、そんな不整脈で測れてたまるか』
『顔に熱がこもるとか、呼吸が苦しくなるとかっ』
『それは、知恵熱と過呼吸に近い何かじゃ』
沙耶の言い訳を、横から医者として潰していく勇真。
『そばにいて、安心するなら。もっといたいと思うなら、それは恋だよ』
『……っ』
何も言えなくなった沙耶に、勇真はにっこり。
『恋や愛の形なんて、人それぞれ。だから、お前が相馬とどうなろうが、俺達は干渉しないよ。でも、幸せにならない道を選ぶのは、やめてくれ。俺達はお前を愛してる。幸せになって欲しいと、心から願っている』
『……っ』
『これは、俺達のエゴだよ。後悔から来る、身勝手。それでも、お前に祈るよ。幸せになってくれ、自ら消える道を最初に用意しないでくれ、とな』
勇真は沙耶に言い返す隙を与える暇もなく、言葉を重ね。
……沙耶は最終的に納得した訳ではなさそうだったが、頷いた。
身勝手な話だ。当時、散々責め立てた。
彼女から逃げ出した俺達が、大樹が願う身勝手な。
「大樹」
それでも。
「っ……」
今更で、身勝手でも、可愛い妹。
幸せになって欲しい。心から。
その為なら、出来ることは何でもするから。
「春……」
「うん?」
「愛してるよ」
「フフフッ、私も。大樹を愛してるよ」
昔から、ずっと包み込んでくれる幼なじみである、妻。
自分が幸せになったのに、未だに自分の言葉が沙耶の心を縛り付けている現実が許せなくて、大樹は身勝手さを自覚した上で、沙耶に願ったのだ。
「大丈夫。沙耶は大丈夫よ、大樹」
呪文のように繰り返される、優しい言葉。
今日も大樹は、その優しさに溺れ、自らの罪から目を逸らした。


