世界はそれを愛と呼ぶ




『何言ってんの……相馬は優しいから』

『どんなに優しいやつでも、あそこまで甲斐甲斐しくはしないよ。普通の男なら』

『じゃあ、相馬は普通の男じゃないんだよ。私が哀れだから、付き合ってくれてるだけで……それに、どうやら、この因縁の裏側には結構、問題の家もあるらしいよ?相馬は自分の役目を果たしているだけ』

予め、なにか情報が入るたび、相馬はそれを教えてくれた。書面にまとめたり、様々なデータを基に持ってきて、沙耶の身の安全を約束してくれて。

想像以上の人が関わっていたし、勇真の父親が殺されたことも、父さんが殺されたことも全て、納得がいく理由ではなかったけれど、これ以上、大切な人を失いたくないという俺達の思いに、相馬は微笑んで頷いてくれた。

沙耶が発作を起こせば、相馬は朝まで沙耶を抱き締めた。
沙耶が不摂生な生活を送らないように、目を光らせて。
沙耶が怪我をすれば、隠すことを知った上で手当てした。

沙耶が望むことを最優先にし、沙耶を守るために権力をフル活用し、沙耶を守るためならば、沙耶への秘密も多く抱え込んで。

そこまでする理由がわからなくて、天下の御園家総帥が。
そこまで、特殊な街とはいえ、大した家でもない黒橋家の娘に全てを捧げる理由がわからなくて。

……大樹は以前、外の世界の孤児院で出会った御園関係者に連絡を取った。

その孤児院は父さんがよく通っていた場所で、遅すぎる今になって、大樹は父さんの真似事をした。
子供達は可愛くて、父さんの影を追いかける大樹を春も支えてくれて、そんな日に彼は。

“こんにちは”

優しげな風貌の彼は、御園関係者だという。
今度の夏頃から、相馬が街を訪れること。
その為、急遽、無理な建築予定を街に入れてしまうことを謝罪された。

彼は御園関係の建築業責任者を務めているらしく、御園家の方々が言う無茶振りを調整する調整官らしい。

とある事情で、彼は御園家に仕事を貰った結果、調整官となった彼は孤児院によく足を運んでいて、たまたま大樹を見かけて声を掛けてきたとの事。

彼の名は、御巫久遠といった。
御巫家といえば、御園家現当主の祖父に当たる先々代の弟が興した家であり、御園の隠密的な役割を果たしている。

連絡を取って会った先で、運命の話を聞いた。
鬼という化け物を自嘲するように語り、その苦しみに囚われたまま、最愛が目覚めないのだと泣いた彼を見た時、ただ漠然と、沙耶は相馬にとっての運命だと悟った。
だから。

『─じゃあ、なんでお前は泣くんだ』

だから、淡々と『自分の役目を果たしているだけ』と言った沙耶の頬を撫で、大樹は言ってしまった。

『え?別に泣いてないけど……』

『寂しそうな顔をして、心では泣いている』

『え、えぇ……』

自分の心の機微に疎い自覚のある沙耶は大樹が触れるのとは逆側の、自分の頬に触れながら、首を傾げて。