☪︎
『さやはしあわせになっちゃだめなの』
コトン、と、言う音が耳の近くで聞こえ、黒橋大樹は目を覚ました。目の前には白いマグカップと、珈琲の香り。
「─あ、起きた?珈琲用意してたら、寝てるからビックリしちゃった。それ、飲んでいいよ」
寝起きで少しぼーっとする頭。
柔らかな春のような愛妻は可愛らしく、 大樹は手を伸ばして、彼女の手に自分の頬を寄せる。
「わぁ!?」
彼女はびっくりしつつも、すぐに順応した。
大樹の頬に触れ、「どうしたの」と、くすくす笑う。
大樹は悪夢の話をした。
沙耶が、妹が泣いている悪夢。
「……沙耶が、泣きながら言うんだ」
「うん」
「『朝陽を死なせたのは、沙耶だよ。ごめん。お父さんを奪ってごめんね、ごめんなさい…』】って、行方不明の事件から帰ってきてからずっと、繰り返し言うんだ」
「そうだったね」
耐えがたかった。
乗り越えられない傷を、悲しさを、寂しさを、全部幼い妹─従妹に押し付けて、家空けた高校時代を後悔した。
「沙耶だって、父さんを慕ってた。幼かった。死を理解できなくて、しょうがない。なのに、俺は沙耶を」
責めた。大樹は、沙耶を責めたのだ。
持て余した感情を、どこにぶつければ良いか分からなくて。自分の代わりというように、父さんに愛されていた沙耶にあった嫉妬心が、父さんの葬式で爆発した。
『離れろ!俺の父さんからっ、離れてくれ!!』
棺を叩いて、起きるように求める純粋さが鼻についた。
暴れた大樹を、母さんは止めた。
お姫様のように純粋で、美しかった母が憔悴していく姿も見てられなくて、大樹は家に帰らなくなった。
「─大樹」
ぎゅっ、と、抱き締められる。
彼女の胸元に頭を預け、大樹は顔を覆った。
「幸せになって欲しい。幸せになっていいのだと、そう思って欲しい。……春は、相馬をどう思う?」
数日前、相馬と出会ってから表情の柔らかくなった妹を大樹が呼び止めると、
『大丈夫。心配しないで。相馬は優しいから、私に付き合ってくれているだけだよ』
大樹が何かを言う前に、彼女はそう言った。
考えすぎだと思う。
でも、大樹は彼女が昔の約束に囚われているのではないかと、不安になった。そしたら。
『俺達の可愛い沙耶も、お嫁に行くのかあ』
と、何故か大袈裟に嘆きながら、勇真が現れた。
沙耶と大樹とは違い、血縁関係は全くない親友兼兄弟。
「とても良い人だも思うわ。それに、大樹もあの日、沙耶に思いを伝えられたでしょう」
春が肯定してくれると、いつも心が軽くなる。
そうやってずっと、大樹は自分の罪から目を逸らして。
『さやはしあわせになっちゃだめなの』
コトン、と、言う音が耳の近くで聞こえ、黒橋大樹は目を覚ました。目の前には白いマグカップと、珈琲の香り。
「─あ、起きた?珈琲用意してたら、寝てるからビックリしちゃった。それ、飲んでいいよ」
寝起きで少しぼーっとする頭。
柔らかな春のような愛妻は可愛らしく、 大樹は手を伸ばして、彼女の手に自分の頬を寄せる。
「わぁ!?」
彼女はびっくりしつつも、すぐに順応した。
大樹の頬に触れ、「どうしたの」と、くすくす笑う。
大樹は悪夢の話をした。
沙耶が、妹が泣いている悪夢。
「……沙耶が、泣きながら言うんだ」
「うん」
「『朝陽を死なせたのは、沙耶だよ。ごめん。お父さんを奪ってごめんね、ごめんなさい…』】って、行方不明の事件から帰ってきてからずっと、繰り返し言うんだ」
「そうだったね」
耐えがたかった。
乗り越えられない傷を、悲しさを、寂しさを、全部幼い妹─従妹に押し付けて、家空けた高校時代を後悔した。
「沙耶だって、父さんを慕ってた。幼かった。死を理解できなくて、しょうがない。なのに、俺は沙耶を」
責めた。大樹は、沙耶を責めたのだ。
持て余した感情を、どこにぶつければ良いか分からなくて。自分の代わりというように、父さんに愛されていた沙耶にあった嫉妬心が、父さんの葬式で爆発した。
『離れろ!俺の父さんからっ、離れてくれ!!』
棺を叩いて、起きるように求める純粋さが鼻についた。
暴れた大樹を、母さんは止めた。
お姫様のように純粋で、美しかった母が憔悴していく姿も見てられなくて、大樹は家に帰らなくなった。
「─大樹」
ぎゅっ、と、抱き締められる。
彼女の胸元に頭を預け、大樹は顔を覆った。
「幸せになって欲しい。幸せになっていいのだと、そう思って欲しい。……春は、相馬をどう思う?」
数日前、相馬と出会ってから表情の柔らかくなった妹を大樹が呼び止めると、
『大丈夫。心配しないで。相馬は優しいから、私に付き合ってくれているだけだよ』
大樹が何かを言う前に、彼女はそう言った。
考えすぎだと思う。
でも、大樹は彼女が昔の約束に囚われているのではないかと、不安になった。そしたら。
『俺達の可愛い沙耶も、お嫁に行くのかあ』
と、何故か大袈裟に嘆きながら、勇真が現れた。
沙耶と大樹とは違い、血縁関係は全くない親友兼兄弟。
「とても良い人だも思うわ。それに、大樹もあの日、沙耶に思いを伝えられたでしょう」
春が肯定してくれると、いつも心が軽くなる。
そうやってずっと、大樹は自分の罪から目を逸らして。


