☪︎
「陽向さん、大丈夫?」
心配そうに、慧の婚約者─茉白に声をかけられて、陽向は疲れを隠せぬまま頷いた。
「相馬が義弟になるの、俺は大歓迎だけど」
松山勇真はそう言いながら、ストックの包帯を巻く。
「そういう問題じゃないでしょう。御園家の場合」
慧はカルテを纏めながら、ため息を零す。
「そうだよねぇ。慧は神宮寺の人間でしたってオチだし、御園家への解像度は高いよね」
「どういう意味ですか」
「そのままの意味だけど。まあでも、本当に沙耶の嫁入り先が御園でも、俺は反対しないよ。茉白と慧が結婚するのも、大歓迎」
包帯を巻き終え、それを棚に仕舞った勇真は白衣を脱いで、陽向の正面のソファに腰掛けた。
「……君のその視野が広いところは、父君譲り?」
「どうでしょう?父はある意味、いい加減だったとも言われてますけど。俺、性格は父にそっくりなんでしょうね。父曰く、容姿は虚弱で早世した母に似てるそうですが」
─松山勇真は、稀代の医者である。
同時に、この街の中だけに限らず、ヤンチャな奴らが恐れ、本職が一目置くほどの実力者。
彼の正義は一貫しており、誰かのために拳を振るう彼は、医者となった今もどこへでも駆けつけ、命のために奔走している。
「俺がこう言えるのは、妻のおかげですよ」
儚げな美青年であった彼は、歳を重ね、憂いを帯びた三十路に突入しようとしている。
その横に立ち、そんな彼から深く愛されているのは、彼の正妻である松山麻衣子。
「どうしたの、勇真」
奥の部屋にいた所を手招きされた彼女は陽向を見ると、「お久しぶりです」と柔らかく微笑みながら、頭を下げてきた。
それに返事をすると、彼女はなぜ呼んだのか、と、勇真に訊ねる。
「彼女の言葉があったからです」
「?、私の?」
「うん。結婚して欲しいけど、絶対に苦労させるし、この特殊な街にお前を縛り付けることを悩んでいた俺に、お前が言ってくれた言葉だよ」
すると、麻衣子は思い出したのだろう。
「『どこへ嫁いでも苦労は尽きない。どうせ苦労するなら、私はあなたのそばがいい』ってやつ?」
「そうそれ。それでガツンと殴られて、俺、一生幸せにすると誓った」
「この言葉、好きだよね。勇真。紛れもない本心だったけど、何度も繰り返されると、恥ずかしいよ」
顔を赤らめる彼女は、見た目に反して、守られるだけの妻ではなかったりする。
意外と気が強く、心身共に勇真を支える彼女は、多くの傷や過去を抱え、今も勇真の隣で。
「陽向さん、大丈夫?」
心配そうに、慧の婚約者─茉白に声をかけられて、陽向は疲れを隠せぬまま頷いた。
「相馬が義弟になるの、俺は大歓迎だけど」
松山勇真はそう言いながら、ストックの包帯を巻く。
「そういう問題じゃないでしょう。御園家の場合」
慧はカルテを纏めながら、ため息を零す。
「そうだよねぇ。慧は神宮寺の人間でしたってオチだし、御園家への解像度は高いよね」
「どういう意味ですか」
「そのままの意味だけど。まあでも、本当に沙耶の嫁入り先が御園でも、俺は反対しないよ。茉白と慧が結婚するのも、大歓迎」
包帯を巻き終え、それを棚に仕舞った勇真は白衣を脱いで、陽向の正面のソファに腰掛けた。
「……君のその視野が広いところは、父君譲り?」
「どうでしょう?父はある意味、いい加減だったとも言われてますけど。俺、性格は父にそっくりなんでしょうね。父曰く、容姿は虚弱で早世した母に似てるそうですが」
─松山勇真は、稀代の医者である。
同時に、この街の中だけに限らず、ヤンチャな奴らが恐れ、本職が一目置くほどの実力者。
彼の正義は一貫しており、誰かのために拳を振るう彼は、医者となった今もどこへでも駆けつけ、命のために奔走している。
「俺がこう言えるのは、妻のおかげですよ」
儚げな美青年であった彼は、歳を重ね、憂いを帯びた三十路に突入しようとしている。
その横に立ち、そんな彼から深く愛されているのは、彼の正妻である松山麻衣子。
「どうしたの、勇真」
奥の部屋にいた所を手招きされた彼女は陽向を見ると、「お久しぶりです」と柔らかく微笑みながら、頭を下げてきた。
それに返事をすると、彼女はなぜ呼んだのか、と、勇真に訊ねる。
「彼女の言葉があったからです」
「?、私の?」
「うん。結婚して欲しいけど、絶対に苦労させるし、この特殊な街にお前を縛り付けることを悩んでいた俺に、お前が言ってくれた言葉だよ」
すると、麻衣子は思い出したのだろう。
「『どこへ嫁いでも苦労は尽きない。どうせ苦労するなら、私はあなたのそばがいい』ってやつ?」
「そうそれ。それでガツンと殴られて、俺、一生幸せにすると誓った」
「この言葉、好きだよね。勇真。紛れもない本心だったけど、何度も繰り返されると、恥ずかしいよ」
顔を赤らめる彼女は、見た目に反して、守られるだけの妻ではなかったりする。
意外と気が強く、心身共に勇真を支える彼女は、多くの傷や過去を抱え、今も勇真の隣で。


