「というか、そんなことを言ったら、俺達はどうなる?一応、生粋の人間のはずなんだが、普通の人間は出来ないとか、化け物とか散々の言われようだぞ」
「……」
「人それぞれ、だろ。相馬」
ニヤッ、と、笑いかけられて、様々な感情が渦巻いて。
「…………運命なんて、って、思っていました」
「うん」
「でも、沙耶と出逢ってから、ずっと」
「らしいね。陽向さんが嬉しそうに話してた」
「……すみません」
「なんで謝る。運命に選んだのは、そんなに悪いことか?陽向さんの話から聞くと、そんなに悪いことじゃないと思うが」
「……俺の運命なんて、どんな目に遭うか」
「力が強いからか?それは」
相馬は頷いた。
自分の能力を知る度、頭を支配する母からの呪いの言葉。
「─俺はそういうの、よく分からないけど」
健斗さんは、なんで許すのだろう。
それが理解できなくて、彼の顔を見れば。
「あの幼い日、沙耶を見て泣くお前を覚えているから、大丈夫だと、思うな」
と、優しく笑われてしまった。
「……その場に、いたんですか」
「いたよ。沙耶を連れて歩いてたの、俺だし」
「……」
「あの頃、朝陽が死んで、アイラがいなくなって。どんどん塞ぎ込んでいく沙耶を前に、帰ってこなくなる大樹達を前に、俺達はどうすれば良いかわからなくなって。沙耶はひとりで姿を消すこともあった。何なら、死を理解できなかった沙耶が朝陽を探しに行って、行方不明になった6歳の頃が1番、俺が生きてきて恐怖を感じた」
「行方不明……?」
「うん。俺の娘、家出常習犯でな。今思えば、その初めての事件から、どんどん塞ぎ込むようになったな」
「……」
「今思えば、あの時、家出じゃなかったのかもしれない」
健斗さんはそばに来ると、そのまま片膝立ててしゃがみこみ、眠る沙耶に触れる。
「俺はこの子について理解出来てなくて、寄り添いが足りなかったと思う。自分に経験がないから、なんて、言い訳にはならない。もっと、やり方があったはずなんだ。抱きしめてやればよかった。一緒に泣けばよかった。理解出来ないなら、ゆっくりと教えてあげれば良かったんだ」
健斗さんの後悔はもう、解消するすべはない。
過去に戻る方法なんてなく、時間は前にしか進まない。
「相馬を見かけたのは、沙耶が7歳の頃だよ。行方不明になって、その後、部屋から出てこなくなった沙耶を半ば無理やりに連れ出した先でのことだ」
「……」
「沙耶が急に立ち止まって、ある一点を見るんだ。だから、そっちに何かあるのかと思ってみたら、お前がいた。お前が泣いて、焦る陽向さんが見えた」
その日のことを、相馬はなぜ覚えていないのだろう。
何故、忘れてしまっているのだろう。
「沙耶は心配そうに見て、お前がいなくなるまで動かなかった。─だから、相馬はそんなに俺に対して申し訳がなさそうな顔をしないでいいから」
「……そんな顔、してます?」
「してるしてる。相馬のそばに居るかどうか決めるのは、沙耶自身。俺達は相馬が好きだよ。だから、沙耶がそれを望むなら、反対する理由もない。
沙耶も相馬も自分を否定したがるけど、そこまで頑なに自分を虐めるな。もちろん、そうなってしまった過去は周囲の大人の責任だけど。後からいくら悔やんだって、どうにもならないから、人はそれを後悔と呼ぶんだ。
なら、愛せないなら、無理して愛したり、見ないふりしようとするんじゃなくて、相馬は沙耶を真っ直ぐに愛してやってくれ。そしたら、沙耶も相馬を真っ直ぐに愛することができる。自分で愛せないなら、互いが互いを愛せばいい。─少なくとも、俺達はそうだよ」
ユイラさんは過去の件から、自分のことを愛することが苦手で、甘やかすことを知らない。
同時に、健斗さんも父親の件などから生を好まない。
そんなふたりが出会い、愛し合い、今の幸せは。
健斗さんは立ち上がり、相馬の頭を撫でてくれる。


