「─相馬、あまり陽向さんを虐めてやるな」
と、笑われた。
「虐めてはいませんよ。ただ、あの人は昔から、俺に夢を抱かせようとする。この人生に希望を、幸福を刻ませようとするんです。それが愛であり、優しさなのは理解していますが、無理に抱くものでもない」
「相変わらず、達観してることで」
「健斗さんがそれを言います?」
「ハッ、それもそうだ」
健斗さんと、相馬の共通点。
─それは、片親に【愛された経験】が欠如している点。
愛されていたといえば、そうかもしれない。
でも、愛されていなかったといえば、それもその通り。
健斗さんは母親に、相馬は父親に。
恐らく、ちゃんと子どもとして愛されていたとは思う。
でも、その愛が本当に美しく、ただ、自分だけをその瞳に映し、愛を与えられていたのかは分からない。
理解するまでに、失ったから。
「陽向さんに何を言われたんだ?」
「え、健斗さんの前で話すの、躊躇うんですけど」
「良いよ。話してみろ。大体、想像つく」
相馬は自分の腕の中に収まったままの沙耶を一瞥し、
「─沙耶を、既成事実を作ってでも繋ぎ止めろ、と」
と、相馬が言うと、
「そうか」
と、健斗さんは何故か冷静だった。
「……怒らないんですね」
「?、何故、怒る必要が?」
「普通、大切な娘をそんなぞんざいに扱われたら、怒るものじゃないんですか?」
「ん〜」
相馬に、普通は分からない。でも、なんだかんだ言って、健斗さんが沙耶を深く愛し、大切にし、幸せになって欲しいと願っていることは知っている。
「でも、相馬の妻になったとしても、沙耶は幸せになるだろ?幸せにするじゃん。お前は」
「……」
「それに、沙耶の同意があった上で、と、陽向さんは言ったと思うよ。あの人の性格的に。沙耶が同意して、お前が問題ないならば、沙耶と結婚する。何も問題ない」
確かに文字通りに見れば、何も問題ないだろう。
無理強しているわけでもなければ、子どもの意志を最優先する健斗さんらしい意見だと思う。
「でも、俺は化け物ですよ」
「だから?」
「健斗さんは知ってるでしょう。新月の夜の度に狂いかけ、異形の姿に変わる俺を。身体能力がずば抜けているのも、この血のせい。貴方は孫が、そんな化け物になることを容認しているんですよ?娘が、化け物を」
「相馬」
「……」
相馬の言葉を遮るように名前を呼ばれて、思わず、相馬は口を噤んだ。健斗さんは優しい表情のまま、続ける。
「自分のことを、化け物と繰り返すな。確かに人と違っていても、今、この瞬間、俺の前にいるお前は人間で、まだ若造で、沙耶を今も大切に抱いてくれている、良い男だ」
「……っ」
「沙耶が選ぶ道なら、俺は反対しないよ。逆にお前を選んだら、見る目あるなと思う。─幸せにしてくれるよ、お前ならね」
絶対的な信頼を寄せられている。
それを言葉の端から感じ、相馬は喉が震えるのを感じた。


