世界はそれを愛と呼ぶ




「─浮かない顔だな」

残された相馬は、飛鷹にそう言われ、苦笑した。

「何を考えているんだ?」

「…………運命の話?」

何、と言われたら、答えようがない話。
これが運命なのか、呪いなのか、分からないから。

「なんで疑問形なんだよ。……希雨達のことでも、お前は責任を感じているんだな。相馬」

ぽんっ、と、頭に手が載る。大きくて、優しい手だ。

「感じるよ。─俺は、御園の当主だから」

どの時代の当主も逃れられなかった、愛の呪い。
生涯独身を貫いても、死ぬまで身を焦がす孤独。
それは発作のように襲い掛かり、逃れられない。
また、血筋の影響で頑丈な御園は“終わり”を選んだとしても、簡単に“終われない”。“終わる”ことを許されない。

誰に許されないかなんて、当主をやっていても分からない。強いて言うならば、〈因果律〉というものだろう。

「あの人も、苦しかったと思うよ」

“終わり”を選んでも、血筋が許さない。
魂に呪いは絡み付いて、最期の最期まで苦しめる。

「……」

飛鷹は何も言わなかった。
変な慰めを、相馬が望まないことを知っているから。

「本当に変な家だよ。─希雨の身体に、何の異常もないんだ。いくら探しても、俺が“視ても”」

久遠が嘆き苦しみ、それを眺めることしか出来ない無力さは相馬の喉を締め付ける。

「だから、意外にもあっさりと、お前は了承したのか」

「転校のこと?」

意外だったんだろう。飛鷹は頷く。

「正直、お前は行かないと思った。桜の件があったとしても、そんなに大人数であの街に押しかける理由もないだろう?何より、お前は俺達の中では1番、権力が強い御園」

「そうだな。俺も思うよ。俺が行くことで、あの街に不利益を齎さなければいいけど、って」

自惚れだと言われるかもしれないが、それほどまでに、相馬の価値は世間的に高いのだ。
─もっとも、相馬を消したところで、御園が手に入るわけではないが。

(そういう面では、〈因果律〉に感謝する)

「……桜が見つかった街、【東雲(シノノメ)】だっけ」

「ああ。【東雲】、【曙(アケボノ)】、【黎明(レイメイ)】が、国から見捨てられた後、彼らが作り上げた街の名前だ」

「そこで、お前は何をする気だ?」

「とりあえず、仕事を取り上げられた以上、あの街に残る廃墟について調べてみようと思う」

悲劇を忘れないため、あの街には広大な廃墟が今も残されている。国はそれから目を背けるため、あの街を見捨てたので、あの廃墟がある限り、手は出されない。

「廃墟を、って……なんでだ。桜が目覚めた場所とはいえ、他に何があるんだ。既に街の調査は入ってるんだろ」

「それはそうだが……桜がそこにいたっていう事実が、まずおかしいんだ」

「?」

「あの廃墟は人が立ち入れないよう、厳重に全方位囲われている。塀の高さは3m越え、有刺鉄線付きだ。しかも、常に近くの大きな建物から監視カメラで全方位見られていて、少しでも塀をよじ登ろうとすれば、センサーが鳴り、標的を照射。塀に何か細工をしようとしても、頑丈すぎて不可能に近く、過度な衝撃には高圧電流が流れるようになっているから、命懸けだ。唯一の入口には、複数人体制で四六時中番人がいて、街の人だけに配布されている身分証明書がなければ、1歩踏み込んだ時点で、問答無用で取り押さえられる。─そんな廃墟で、桜は見つかったんだ」

「……」

「その廃墟の警備体制について、ここまで聞けば、違和感が生じるだろ?……じゃあ、犯人はどうやって桜をそこに連れてきて、放置したのか」

飛鷹は口元を押さえ、何かを考え始める。
物理的に不可能なこれらで、考えられるのはふたつ。

「廃墟に、知らない出入り口があるか……または街の中に裏切り者がいるか、か?」

「ああ」

「……無理するなよ」

“裏切り者”の時点で、察しがついたのだろう。
飛鷹の言葉に、相馬は困った顔で頷いた。

「これで、希雨姉さんが目覚めるのなら」

あのふたりが、かつての約束通り幸せになれるのならば、相馬は何だってする。─幼い頃、可愛がってくれたから。

「希雨も、お前が無理することは望まないよ」

飛鷹がそう言うのは、幼なじみだからだろう。

「……そっか」

相馬は確かに美月とは幼なじみだが、飛鷹とは少し年齢が離れており、幼なじみというよりは、幼い頃に面倒を見てくれた人に近い感覚だ。
(実際、飛鷹は教師として、相馬たちの高校にいた)

飛鷹は最初、希雨の婚約者候補としてあげられたひとりであり、男性に苦手意識を持っていた希雨は引きこもった。
多くの候補は希雨に付き合えず、候補を下りたが、その中で飛鷹だけが希雨を待ち、寄り添い、背中を押した。

御園家は昔から女性が生まれる確率が低く、しかし、とある事情で直系の女性が途絶えるのは困るということから、御園の直系女性には早めに婚姻を結ばせようとする老害が多い。

希雨は飛鷹と同い年だが、希雨は優しく包容力のある飛鷹に懐き、飛鷹は希雨を妹のように可愛がっていた。

「相馬、素直に答えて欲しいんだが」

「うん?」

「─希雨はあと、どれくらい持つ?」

飛鷹の顔は、真剣だった。
幼なじみたちの未来を案じる飛鷹の気持ちを思えば、この質問の内容も理解できるものだ。

「御園の当主として答えるならば、約半年」

「それ以外ならば?」

「……認めないし、許さない」

相馬がそう返すと、飛鷹はフッ、と、笑った。

「─なら、希雨は助かるな」

「どうして、そんなに力強く言えるんだ」

呆れたように相馬が言えば、飛鷹は楽しそうに。



「お前が許さないなら、それが答えだ」