世界はそれを愛と呼ぶ



「あ、不快だったら……」

一応、逃げ道を提示すると、槙は無言で相馬の手を取る。

「良かったね。もしかしなくても、御園くんの手を借りることで、仁王の苗字を捨てて、黒宮になれるかもよ」

怜皇が横から言った言葉に、彼は小さく頷く。
どうすれば良いか判断しかねて、沙耶を見ると、沙耶は微笑みながら、相馬の背中に触れた。

「……槙はね、仁王の苗字が大嫌いなの。でも、子供だから、捨てられなくて。黒宮に養子入りして、黒宮姓を名乗るのを目標にしているうち、気付けば、副総長まで成り上がった。本当は優しくて、喧嘩なんて向いてないんだけどね。怜皇とは違って」

「沙耶、絶対、最後の一言いらない」

怜皇の抗議は聞き流し、沙耶は続ける。

「だから、相馬に感謝してるんだよ。なんて言えばいいか、考えてるだけ」

「そ、そうか……」

正直、お金を返済するだけではダメだったのだろう。
それだけなら、黒橋家が何とかしていそうだから。

「……さっきの話、なんだけど」

手を握ったまま、槙が話す。

「うん?」

「五人の、弟妹……」

「ああ。賑やかそうだな」

相馬も五人兄弟の真ん中ではあるが、家庭が家庭のため、そんな賑やかさとはかけ離れた生活だった。

「否、そうじゃなくて……その、」

「?」

「沙耶、この国でいちばんの権力者って誰だと思う」

モゴモゴと言葉を悩んだ末、沙耶に聞く槙。
沙耶はキョトンとした顔をして、

「お家系なら、相馬じゃない?政界にも通じているし、国の一番の脅威だと思う」

否定できないので、相馬は黙っておくことにする。
御園家は国と、個人的に契約を結んでいる。
一言で言えば、【謀反しませんよ】というもの。

(御園が本気でやれば、1日もかからないだろうからな)

化け物の力を孕んだ、数千年の家の底力。
相馬も把握しかねる力を、国が持て余しても仕方ない。

「四季の家よりも?」

「……華宮とか?」

まさかの名前に、沙耶の声が震えた。
槙に右手は預けたまま、左手を沙耶に向けると、沙耶はそれを自然と取り、「それで?」と、槙に聞き返した。

「最近、知ったんだが」

「うん」

「俺のせいで家庭が壊れたと話していた家が、四季のひとつさ。どうも、第一夫人とやらが、それで精神をおかしくして亡くなってるらしくて」

「……」

「俺が気にすることじゃないと、怜皇には言われた。けど、本当は、その家はどうなったのかなとか」

沙耶の手に、力が篭もる。
震える手が相馬の両手にあり、相馬は思い返す。

(槙が生まれた頃なら、相馬は確認しようがない。生まれていないか、赤子か……陽向さんならば、何か知っているだろうが、そもそも、その時事を付けた本には何か書いていなかったか……)

頭の中で本を捲りながら、当時の出来事を思い出す。
こういう時、丸暗記が得意なのは便利だよな〜なんて。


─というか、そもそも。