世界はそれを愛と呼ぶ



「柊怜皇」

沙耶はそう静かな声で呼び、怜皇という男は眠そうに目を擦ったあと、沙耶を見て。

「…………いる」

と、呟いた。

「は?」

「沙耶じゃん。帰ってきたの……?」

中性的な、綺麗な顔立ち。
眠そうな姿はか弱さを際立たせ、沙耶は深いため息。

「おかえり〜」

入口近くにいた、明らかに不良の見た目をした者たちのトップに君臨しているとは思えない姿。

「……ただいま。それより、何?校内の荒れ具合」

「え?」

「ふざけているの?よりによって、女性を突き飛ばしたりするなんて間違ってる。こいつらなんて、私に襲いかかって来たわ?」

「ふうん……それって、彼が君のそばにいるからじゃない?彼にお近づきになりたい子は沢山いるだろうし、その為には沙耶は邪魔だろうから」

「……そういうこと?」

沙耶がチラリ、と、こちらを見てくるが、相馬は肩を竦めて知らぬフリをした。

正直、この街で生活をしている間、一定数の視線はずっと感じている。

同時に、相馬は自分の容姿が世間的には美しいこと、学力などを鑑みても秀でており、家柄や立場を踏まえると、優良物件と言われる人間であることは知っている。
(澪が雑誌を読みながら、そう言っていた)

だが、だから何だ。
こちらをよく知らない者に変に執着されたところで、相馬は応えることができない。

相馬は運命の相手以外ならば、番うつもりは毛頭ない。
余計な命を生み出す気も、散らせる趣味もない。

だから、好意を向けられても迷惑なだけである。

しかし、それで沙耶が被害に遭うのも違う。
何より、普通に腹が立つ。
運命の番であるからとか、そういう云々もあるだろうが、それよりも、自分の安寧の地を侵された不快さが強い。

「その為に、手を回している馬鹿がいるってことね」

「うん。そうだと思う〜」

「……相馬達が通うのに、支障が出るわ」

「そうだね」

「今、ここにいる以上、ここの制服を着ている以上、彼らも学生のひとりよ。家柄も、容姿も関係ない」

「うんうん」

「私を標的にするのは良いわ。─どうせ今頃、私の立場に怯えているのが半分でしょうし」

「だろうね?君はこの街の憧れの的であり、守護の要である黒宮家の人々が唯一、膝を折る相手だから」

「怜皇、話を捻じ曲げないで。それは、私が黒橋家の人間だからでしょう。黒橋健斗の、娘だから」

「……」

沙耶の言葉に、怜皇は相馬を見た。
彼が言いたいことは理解出来るので、微笑んでおく。

─黒橋健斗の娘であるという事実を横に置いておいたとしても、沙耶は膝を折るだけの価値と存在感がある。

大樹さんとはまた違う、圧倒的な支配側。

(沙耶に言ったら、嫌がりそうだが)

だからこそ、相馬も沙耶のそばは心地が良い。
相馬はどう足掻いても、産まれてきた瞬間から、支配する側でしかない。
支配される側には回ることができないから。