世界はそれを愛と呼ぶ

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「うん、すごいな」

馬鹿の一つ覚え、と、言うのだろうか。

「凄いでしょ。ここ、天と地の差が酷いんだよね」

沙耶はそう言いながら、ズルズルと男を引き摺っている。
なお、相馬は沙耶の手で伸びてしまった男を俵担ぎ。

「持たせてごめんね、それ」

「いや、急に殴りかかってきた時、思わず、回し蹴りしそうになったから助かった」

「相馬が見えてなかったにしても、天下の御園当主にして許されることじゃないからね」

「外なら確実に、SPからの牢獄行きだな」

それくらい厳重な自分の護衛を思い出して、笑ってしまう。
もっとも、普段は落ち着かなくて嫌いだし、公的な場でしかSPがつくことは認めていないけど。

「あ、ここ」

たどり着いたのは、一番端の教室。

「図書室?」

「元、だけどね。大樹兄の時は現役だったんだけど、図書室はお引越ししたの。そしたら、ここが青龍の溜まり場?になっちゃった」

「許容されてるのか?」

「してなかったら、今頃、勇真兄が来てるよ。なんだかんだ言って、たまに馬鹿はいるけど……勇真兄を知っている人は皆、勇真兄に逆らおうとしないから」

白衣姿で、いつもケラケラ笑っている姿しか知らない相馬からすれば、全然想像もつかないが、普段穏やかに見える人ほど、腹の底で何を考えているのかは分からないもの。

実際に黒橋家が荒れていたときでさえ、荒れている大樹さんに付き合ってヤンチャしていたらしいから、彼は本当に怒ったら、どうなるんだろうと思ったり。

「─さて」

沙耶はひとつため息をつくと、片手で思い切り躊躇いなく扉を開け放ち、男を放り投げる。

「相馬も投げていいよ」

「や、置くよ」

相馬が抱えていた男は、沙耶を狙っていた。
そして、その沙耶に攻撃を避けられた哀れな男は、金的蹴りをくらい、ひっくり返った。
その上、沙耶は躊躇いもなく、その大切な部分を踏み付けて、ぶち切れていた。

それを見ていた相馬は、想像できるからこそ可哀想に感じてしまったので、床にそっと置くことにする。

中にいた複数の人間が扉が開く音に反応し、こちらを見たが、沙耶の躊躇いもない放り投げに目を丸くし、こちらに注目していた。

「怜皇」

沙耶はそのざわめく男共を手で追い払いながら、奥の部屋へ向かっていく。

そこには揺り籠のような椅子に座り、すやすやと眠る男。