(……どちらにしろ、子を残さねばならぬのならば、結婚は避けられない。どんな相手でも受け入れる。番以外ならば、どれも同じだ)
「─その少女はどこへ行ったの?」
「わからない。久遠は希雨に気を取られていて、少女の動向を見ていなかったらしい。気づけばいなくなっていて、顔も知らないから、探しようもないと言っていた」
久遠と希雨は番同士だ。それは当主である相馬が見ても間違いなく、希雨が眠り続けている限り、久遠はずっと救われない。そして、希雨にもしもの事があった時、久遠はこの世界から消えるだろう。
常に薄氷の上のような関係性。特殊な血筋ゆえ、“人間”という括りでは考えるには少し異常なほど、若々しく、美しいまま、100歳を超えても生きる一族。
勿論、番関係の影響で、普通の人間であった者も多少は長生きするが、大抵、御園のものは番に遺される。
どう足掻いても、先に死なない。番が先に死に、その後を追うかのように、1年以内に息を引き取る。孤独を厭うから、同時に、自身の知らない最愛の番などを生み出すことがないよう、先に逝かせる。
呪いのような関係は、血筋に絡みつき、何千年も。
「─相馬、相模、澪、薫、桜、甲斐」
流石に、玄関先で話し込みすぎたらしい。
護衛兼婚約者である、桐生飛鷹(キリュウ ヒオウ)を連れ、天宮家の長女・天宮美月(アマミヤ ミツキ)は現れた。
「全く。いくら待っても上がってこないんだもの。思わず、迎えに来ちゃったわ。話すなら、部屋に上がってから話せば良いじゃない」
「わぁ〜!ごめん〜!」
桜は自分の言葉が長話が始まるきっかけになったと思っているのか、美月に謝る。
口では色々と言っているが、別に彼女は怒っている訳ではないことを分かっている俺達は、桜と美月の楽しそうな姿を見ながら、顔を見合せ、微笑んだ。
「今日はね、皆が来るから新しい紅茶の葉を用意したのよ」
「え、そうなの?じゃあ、このお茶菓子で正解だ〜!」
パウンドケーキを始めとする色々なお菓子を持ってきていたらしい桜はそう言いながら、美月の手を引いて、天宮家の中へ入っていった。続いて、薫、澪や相模、甲斐も。


