「─体育は、柊先生からの説明通り。普通の体育が良いなら、一般のAコースを選ぶように。だが、運動が苦手ならば、Bコースをおすすめしている。1度は自分の目で見てもらわないとだが……そうだな、基準としては黒橋についていけるなら、Fコースで大丈夫」
「F?黒橋ってことは、沙耶?」
「そうそう。Fコースはうちの学校、いちばんの最高ランクの体育の授業だ。黒橋は君たちと同じタイミングで入学するが、元々の身体能力が高いから」
「難しいの?」
「ほぼ、地に足を付いていないと思った方が良い」
サラッ、と、言われ、それをこなす沙耶も、教える人もいるのだという事実に、光輝は怯えていた。
「じゃあ、俺達はFだね」
その様子を見ながら、水樹が笑う。
「薫は?」
「俺は桜に合わせるから、Aでいい」
「護身術を強める目的でも、少し強いところ目指せば?」
「無理させるだろ。体験させて可能であれば、来年から考える」
相変わらず、過保護な薫。
それを見て笑いながら、薫の意志に同意した桜。
「体育は、各コースごとにカリキュラムは組まれているからな。この学校の講義は大学と同じ感じで、自分で計算して、単位を取るんだぞ〜」
「その方が楽だよ。帰れるし」
「可愛くねぇ子供だな」
水樹の発言に頭をガサツに撫でる、鏡宮先生。
「この学校のカリキュラムって、理事長が決めたんですか?」
「まあ、大体は?健斗さんと話し合いながら、理事長が決めたみたいだが……お陰様で、外の世界に出て行った卒業生から、『常識が歪んでて、苦労してます。楽しいのでいいですが』という意見が多く寄せられている」
「常識が歪むの?」
「歪むだろうな〜!外の教師もやっていたけど、残業とか全員、教師は面白がってやってるし。ちゃんと手当も出るから、皆、不満は出ないし。顧問とかも望まなければ任命されないし」
「休む理由は、詮索されないのは助かります。子供などの家族のこと、体調はもちろん、自分の気分でも休みに融通が効きますし、単位制なので自己責任になりますから。私達教師の負担は少ないんですよ」
「へぇ〜でも、それに生徒全員は納得してるの?」
「そうですね。悪に憧れて、とか、外でちょっと悪さをして警察の方から連絡を受けて、とか、そういう経緯で入学してくる生徒も少なくはありません。開校時から、そういう生徒も沢山います。一方で、外では伸びることがないと判断され、病院の先生を通じて入学されてくる、天才だけど、外では手に負えない問題児もいます。あとは、純粋にこの街の出身、特殊な身の上、事情……」
「君達の場合は、特殊な事情、身の上にあたるってわけだ。でもまぁ、安心して欲しい。他の高校とそう変わらない。ミーハーな生徒はいるし、恋愛の揉め事もよくあるし、喧嘩だって日常茶飯事で、賑やかだ」
「ここに入学した場合、外の親は口を出せません。子どもからの訴えがあった場合のみ、介入できる仕組みです。半数は家族から縁を切られていたりしますが……この街出身や、特殊な事情、身の上の場合は、そこら辺は全てちゃんと同意の上での御入学になるので、特に大きな問題事は起こったことはありませんが、鏡宮先生の言う通り、普通の高校生のようなことはありますよ」
「イジメを始めとする、犯罪に触れる行為も多い。実際、ラインギリギリが入学してきているわけだからな。─あ、アウトもいるか」
「でも、半月も経たないうちに大抵、大きなことはしなくなります」
「そういう小童は、基本、強いものに従うからな」
ハハッ、と、笑う仁坂先生は元々、外の世界では荒れていた生活を送っていたと、調べがついている。


