世界はそれを愛と呼ぶ




「当時の北御門当主夫妻をはじめとし、残虐に殺害された事件のことですよね。複数の家が集まったお茶会で、断末魔が響き渡ったという……」

「北御門の長子は、加担していなかったの?」

「そう言われていますが、ほぼ外に出たことがなく、姿を見せなかったため、誰も見た目を知りません。知っているものは皆、その子どもに消されましたから」

「それは……」

「勿論、世間は北御門に同情はしませんでしたよ。その価値に値しなかったので。同時に、その息子を探し出すこともしませんでした。完全犯罪と呼ばれるほどの完璧な環境を作り出していたこともそうですが……調べたところ、焔棠も無関係じゃなさそうなんですよねぇ……」

「え!?」

相模はにっこりと微笑みながら、

「北御門の件には、健斗さんが関係している。そうだよね?相馬」

と、こちらに視線を投げてきた。

ある程度はお見通しらしい。

「そうなると、全てが繋がってくる。彼女の人生を壊したいのが、健斗さんに恨みを持つものなのかどうか、とか」

しかし、あと一手に欠けている。

「それはないよ」

相馬は眠る沙耶の背中を撫でながら、言葉を紡ぐ。

「沙耶の人生を壊したい、という人間がいたとして、その人間は健斗さんに恨みを持つものじゃない。強いて言えば、沙耶に流れる血に、容姿に、憎悪を抱いている」

「……」

「話しただろう。少しの愛でも、長い時を経て、大きな恨みになっているのだと。─恐らく、そちら側にはうちの分家が絡んでる。実験、という名目で。北御門の件は間違いなく、別件だ。健斗さんは自ら宣言するくらい、偽善者だから」

黒橋健斗という、ひとりの男の生き様は格好良く、それでいて、残酷な一面も隠しはしない、人の上に立つ資格を持って産まれてきた男。

「沙耶の件は、フィーがイタリアから連れてけると」

「西園寺麗良さん達、おふたりを?」

「ああ。そして、瀬奈さんからは『夏川湊』に聞け、とのことだけど……生憎、今は留守にしてるんだよな」

沙耶のパニックを見た感じ、華宮家との繋がりなどから考えて、夏川湊は北御門関係者だろう。

健斗さんは表の世界で生きられなくなったものを、街へ優先的に迎え入れる人だから、北御門関係者が紛れ込んでいてもおかしくはないわけで。

「関係者が多くなると、頭が痛くなるね」

「仕方ない。多方面で、ゆっくり整理していくさ」

澪が顔を顰め、相馬は笑う。
この穏やかな寝息を守る為なら、何だってしてあげたい。