「─ごめんっ、全然わかんない」
甲斐はぶつぶつ考え込みはじめ、澪はきょとん顔。
桜もついて来れず、それを見た薫が口を開いた。
「相馬の祖父の陽介さん……先々代当主の実弟が興した、御巫家が御園の雑事を果たしていることは知っているよな?」
「うん。ほら、陽介さんのお父さんである圭介さんが結構、色んなことをやらかしてて……それを見て育ったから、早くに家を興し、陽介さんの力になることを証明することで、他の人間に利用される隙を潰した……主に人助けを優先にしている家でしょ」
「そうだ。弟君、統(モト)さんは、番制度に苦しみつつも、多くの事件で行き場を無くした人々を囲い込み、自分の妻として守ってきた。そうして望まれれば、愛に応え、家は大きくなり……その末に、御園希雨の恋人である久遠がいる」
だから、久遠は相馬達のように家に縛られなくても良い。
どこへでも自由に羽ばたいて、生きていける全てを有していて、それでいて、彼は希雨と生きるために自由を捨てた。
「同時に、御園に引き込めないが、引き込んでおいた方が良いと判断した人間は主に、御巫が引き込んでいる。番制度が薄いから、子を成しても相手を死に至らしめる危険性がないからな。他にも様々な点から考慮されて、御巫は、鳳月と古い姻戚関係にある」
「じゃあ、鳳月には御園の血を引く人間はいるってこと」
「そうだ。だが、そこまで御園が権力を奮っていたら、社会は御園の独壇場になる。御園の当主の一声で、何もかもが動き出してしまう。そんなことは、相馬は望んでいない。だから、一線は越えないという無言の約束が、国と御園の間には存在しているが……その約束の中には、警察等の組織は如何なる理由があっても踏み込むなかれ、と、わけのわからない条文が刻まれていた。それに気付いたのは、陽介さんだった。気付いた原因は、先代姫の……」
そこで、薫は言葉を濁らせた。
あまりにも珍しいそれに、相馬は笑ってしまう。
「別に、言葉を選ぶな。─あの人、俺の母親が自殺した時、その現場検証に警察を招き入れようとしたら、断られたらしい。そこで、そのわけのわからない条文を知ったんだ。恐らく、分家の誰かが定めたものだろうな。お祖父様は即座に取り消し、結果として、本当に自殺だった訳だが……まぁ、俺達が条文を取り消したということは、俺達に従う、否、俺達を理由に捜査を避けていた家々にも、警察の手は伸びる。勿論、御園だからと言って、他の家を好き勝手できることはないが、それもその家の当主の一声さえあれば良い」
相馬がそう言って微笑むと、桜は意味を理解したのか、顔を引き攣らせた。
相馬は基本、家々の当主とは“仲良くしている”。
「御園に連なって、鳳月も警察の介入から遠くなっていたが、御園、御巫とくれば、鳳月も対象範囲。その事前捜査があった為、北御門の件があった際も、鳳月は北御門の被害者として片付けられた。正直、どっちにも転びそうだったんだが……たった一人の少女の死に、理由をつけられた」
その少女の死について、名家では悲しくとも良くあること、それが今回は上手く表沙汰になったのだと、相馬はぼんやりと思っていた。
しかし、それはそんな簡単に流していいものではなかった。そのひとりの少女の死は、多くのものを破壊した。
「─薫、調べたんだろ?」
「調べたと言うより、ジジイが報告書を回してきた」
薫は気だるげに呟いて、ため息を零す。
恐らく、内容を全て頭に入れているのだろう。
「つまり、鳳月が裁かれなかったのは、その少女のおかげってことよね?その少女は何者なの?」
「鳳月家の親戚筋の娘だと言われているけど……それ以上に、何か別の力が働いていると言われている」
「別の力?北御門が滅んだ原因があるってこと?」
「ああ。北御門の汚職を含め、多くの薄暗いところを晒し上げ、鳳月は北御門を追い詰めた。裏切ったという見解もあるが……とりあえず、今の段階だと、鳳月に情報提供をした人間がいるということだ。情報を渡し、追い詰めることを求めた人間がな。警察はその人物を見つけられていないらしい」
桜は考え込んで。
「鳳月瀬奈……神の代理人……ということは、少女の正体も勿論、知っているわよね?」
「そうなるな」
「瀬奈さんは、話してくれないの?」
相馬は首を横に振った。
「話してくれないのではなく、話せないそうだ。その少女のことに関し、口にすることは止められているらしい。それが例え、どのような権力の前であろうと」
「なかったことにしようとしている、ということ?」
「いや、北御門の長子が起こした事件がきっかけとか」
「北御門での事件……?ああ、もしかして」
相模は思い当たったらしい。
確認の意を込めて、薫を見、薫が頷くと、口を開いた。


