「─沙耶、華宮(カク)家って知ってるか」
小さな声で、相馬が聞いてくる。
「華宮……?」
「うん。聞いたことある?」
「……どこかで?」
どこでだったかは思い出せないけど、どこかで聞いたことがある。そんなに遠い記憶だった気もしないけど─……。
「─悪い、電話だ」
考え込んでいると、相馬のスマホが鳴って。
相馬が立ち上がり、エントランスホールの隅の方へ。
「……相馬、沙耶を前にすると、かなり穏やかな顔をするのね」
その背中を目で追っていると、澪は優しく微笑みながら、そう言った。
「?、そうかな。目を離すと、私が死にそうっていうのもあると思うよ」
「沙耶、私達は相馬の幼なじみだよ。相馬がどれだけ女嫌いか、よく知ってるんだから」
「え、女嫌いなの……?」
澪は胸張ってるけど、沙耶にはどうしても想像つかなくて。
「沙耶は、見たことないのね」
「?」
「相馬の怖ーい顔」
「……」
言われて考えてみたら、無いかもしれない。
いつも優しく微笑んで、幼子にするように接してくれる相馬は、沙耶の心を過剰な程に気にして、守ろうとする。
「……変なのは、分かってるんだけどね」
出会って、ほんの数ヶ月。
それだけで依存したように、相馬のそばにいる。
相馬にわがままを言って、一緒に寝てもらっている。
相馬にわがままを言って、甘やかしてもらってる。
相馬の言葉は心地良くて、安心する。
「─え、変じゃないでしょ」
ずっと心に残るモヤモヤ。
それを跳ね飛ばすのは、澪の言葉。
「変じゃないよ、沙耶」
援護するような、桜。
見ると、優しく微笑んでいて。
「沙耶の事情は知ってるよ。その為にさ、利用できるものは全部利用して、幸せに生きよう」
「そうそう!自慢じゃないけど、私達、それなりに社会的地位は高い方だよ」
そんなことを言って、薫や相模と笑い合うふたり。
幸せそうで、最愛の人と生きていくのは本当に、とっても幸せそうで……。
『大丈夫!いつか沙耶にも─……』
突如、脳内に映し出されるのは。
『沙耶も、お姫様になれるよ。誰か、たったひとりの!』
─どうして、忘れていたんだろう。
大好きな人だった。私が拒んで、遠ざけて。
あれから数年経って、それで、色々あって、だから。


