「娘の名は、八重といった。八重の母は、春の家と呼ばれた家出身であり、父は夏の家と呼ばれた家出身だった。ふたりは能力者ではなかったそうだが、愛し合っていたふたりの想いが、そのまま八重に移ったのだろうと」
「春の家……?」
「とある名家四家を纏めて、“四季の家”と呼ぶんだ。八重がいたから、四季の家のはじまりは春の家とされている」
「ふうん……?」
そんな家が存在していること自体、沙耶は初耳だった。
でも、相馬の言い方的に、そういう面も存在している名家があるということだろう。
「八重はその後、長の子を産んだ。そして、一族が人間に追いやられ、今なおも苦しめられている事実を知った彼女は、自分の大切な家族を、自分を守ってくれなかった人々のために犠牲になることを許せなかった。だから、家を興したんだ。─鬼が、この国を支配すれば良いと」
「……」
「でもそれを、長は窘めた。『そんなことを君が願うことを、君の御家族が望んでいるとは思えない。君が君らしく、幸せに笑っていてくれることを願ってくれていた優しい御家族なのだろう?』と」
確かに、その時代に女性の身で好き勝手に生きて、それを許されていたということは、かなり家族の影響が大きいのだろう。
だからこそ、彼女を欲した人々は彼女を手に入れることができず、強硬手段に出たのだから。
「それを受けて、八重は考え直した。それでも、この子達にとって良い環境で生きていって欲しいという願いを、長は聞き入れて。2人の女の子に恵まれたものの、片方は鬼の血が濃く、片方は人間の血が濃ゆかったようでね。ふたりは互いに愛する人を見つけて、盟約に逆らうことなく、家は続いていく─……がまあ、この後も頭が痛くなるゴタゴタがあるんだけど、そのゴタゴタを最終的に抑え込むのが、五代目なんだ」
「ゴタゴタは聞かない方が良いの?」
「うーん……そうだね。端的に言うなら、八重の家の分家筋が手を出してきたんだ。それだけ、八重が興した家は大きくなってしまってね。結果として、八重の孫夫婦は、その子供達は……」
相馬が口を濁したことで、結末がわかってしまう。
─殺されたのだろう。権力争いというやつだ。
「しかし、生き残った子供が二人いてね。姉と弟……姉は、鬼と結婚した。そして生まれてきた子が、稀代の当主とされるくらい強くて」
「じゃあ、かなり長い間、当主だったの?」
「うん。それを、叔父であった弟は支え続けていた……あの時代はある意味、八重が望んだ鬼の独壇場。誰も逆らえなくなって、【御園】はどんどん大きくなっていった」
それが、御園のはじまり─……気が遠くなる程遠い、存在しているかもわからぬ時代の物語。
あくまでそれらは、家の古文書に残っていただけであり、真実かは知らないと笑う相馬。
でも聞いていたらわかる。紛れもなく、真実だろう。
だって、相馬は【血の盟約】を経験者のように話す。
彼の伯父達もまた、当たり前に【運命の番】を─……。


