世界はそれを愛と呼ぶ




心優しかった一族の長は、彼女を匿った。
彼女の事情を聞き、一族の中で生きられるようにした。
一族の中で生きづらさを感じる日々もあったけど、それでも、彼女は少しずつ前を向こうと─……。

「一族の中で生活し始めて、しばらく経った頃。娘は気づいた。自分だけが年老いて死んでいく事実に」

「……ということは」

相馬が顔を上げ、頷いた。

「ああ。一族は、鬼の一族だった。立派な角を持ち、人を主食とする存在─娘はそれが悲しくて、仕方が無かった。若々しく見える長はまだ何百年も生き続ける未来があって、その横にいられない自分を受け入れられなかった彼女は、長に願った。……細かいことは省かれていたが、紆余曲折の末、長と娘は結ばれた。そして、【血の盟約】を結んだんだ」

「【血の盟約】……?」

沙耶が首を傾げると、相馬は「御園には今もある」と笑う。

「【血の盟約】には、様々な規則がある。それは、人間である娘を思いやりすぎた優しい長の心根が現れているのではないか、と、昔から言われているそうだ」

相馬が言う、【血の盟約】の規則。

1.互いを愛し、互いを想い、互いを守ること
2.羅刹(ラセツ)は、最愛を裏切らないこと
3.羅刹は最愛以外と交わらず、子を成すことはできない
4.羅刹は最愛が裏切っても、怒らないこと
5.羅刹は最愛の後を追うこと
6.羅刹は【運命の番】を見つけるべし
7.羅刹は己が本能を忘れないこと
8.羅刹の渇きは、最愛が収めるべし

「……とりあえず、めちゃくちゃ【羅刹】だね」

「ああ。【羅刹】は、鬼を表す用語として、本当に古来から使われていたらしい。他にもあるけど、あまりにも羅刹に重すぎるだろ?だから、羅刹の渇きは最愛が引き受けるのだと、最愛たる娘が書いたそうだ。1度書けば、取り消すことは出来ず、その身を、運命を縛り付けるから」

「じゃあ、」

「ああ。これ守らないと、普通に死ぬ。そうやって死んだヤツら、歴史上、かなりいるよ」

古来のものだと、1000年以上前の遺物だと、馬鹿にした人々は全員死んだ。
裏を返せば、そいつらは長の血を引いているということ。
でも、そんな1000年以上前の話、今やどの人間が一族の血を引いているかも分からないのに、あまりにもリスキーすぎる。

そう思ったことが伝わったのか、相馬は微笑んで。