世界はそれを愛と呼ぶ




「─時は進み、今から1200年ほど前。とある家があった。都の中では位が高く、家族仲が良いと評判であり、治癒能力を持つ美しい娘がいると評判だった」

【治癒能力】─それは、確かに重宝ものだ。その上、美しいともなれば、縁談は尽きぬものだったろう。

「しかし、その美しい娘は男勝りで。いつも兄や乳母に怒られ、両親には笑われ、楽しく日々を過ごしていたという」

男勝りなら、大人しく縁談を受けることはなかったのか。
相馬の話だと、御簾の奥で過ごす時代─男性と触れ合うなど、顔を見せるなど、恥だとされた時代に。

木に登り、走り回り、扇子や御簾などどこへやら。
お淑やかとは無縁であり、特別な能力を持つものは当時、とても大切にされた存在だったゆえ、誰も彼女を縛ることが出来なかった。

「─でも、ある日、父の正妻であり、自分の母親を亡くした。突然死だった。正妻を溺愛していた父はそれから数年後、後を追うように亡くなった。夫妻が亡くなる間の時期、父の側室が大勢突然死した。あまりにもおかしい状況に、彼女は誰かの策略を疑った。多くの弟妹達も、不自然死を遂げていき……そして、胎は違えど、仲良かった唯一の兄であり、心を許していた人を亡くした娘は壊れた。同母妹の可愛い妹も、目の前で死んだ。彼女はたった数年間で、全てを喪った。最愛の家族の死を前に、彼女の能力など、何もかも意味をなさなかった。彼女は絶望し、自ら死のうと試みた。しかし、死ねなかった。家族を続け様に死に追い込んだ人間を見つけたからだ」

淡々と語られる、娘の人生。
その人生を語る相馬の顔は見えぬまま、この真偽がどうだとしても、娘の絶望は計り知れない。

「その相手は、娘を手に入れるために家族が邪魔だったと言ったらしい。だから、彼女を慕う弟妹を事故に見せかけて殺し、結婚に反対した両親や兄も殺した。娘の家の権力全てを欲していたから、後継問題としても邪魔だったらしい。─彼女は自分のせいで、家族は死に追い込まれた。自分が結婚を受け入れていれば、と、後悔しながら、求められるまま、舞を舞った。詩を詠った。治癒の舞として、多くの人々が集まり……その全員が、彼女の声を聞いて、血を吐いて絶命した」

その時、彼女は『自分がそれを心の底から望んでいた事実に、手が震えた』と遺しているという。
彼女は逃げ出した。追っ手が来た。
そんな追っ手から救い出してくれたのが、太古から存在する一族だったそうだ。