世界はそれを愛と呼ぶ




「利用出来るものは、何でも利用しなきゃ。─じゃないと、私達みたいな人間は生きていけないわ」

いつだって、社交界は足の引っ張り合い。
互いの悪口で、互いの心を削って、そうして蹴落とし、成り上がっていく。

「…………君が、君の大切な人達が、御園の、俺のせいで不幸になっていたとしても?」

「……」

沙耶はその顔を見て、水樹達の言葉を思い出した。

ショッピングモールで散々、見せられる洋服や小物の山に少しでも惹かれた素振りを見せたり、訊ねられたことで素直に言葉を発すれば、相馬のカードで次々と決済された。

申し訳なさでいっぱいになって、途中から興味を無くしたフリをして、同行してくれた人達のショッピングを眺めていようと黙っていても、気付けば、マネキンのように着せ替えられ、勝手に決済されていくという、想像していなかった心身の疲労でぐったりしていた中、掛かってきた電話だった。

『沙耶、兄さんが何か変なことをしようとしてないか、見張っておいて。あの人、隠すのが一等上手なの。そんなことされたら、俺と氷月は何も出来なくなる』

『昨日、兄さんは誰かと長時間話していた。見ないフリをしていたけど、聞かないふりをしていたけど、兄さんの顔色が悪くなってた。声を荒らげて、悲しそうだった』

『だからお願い』

『兄さんを守って、沙耶』

─双子からの懇願には、兄への心配が滲んでいた。
相馬が何を気にしているのかは分からないけど、既に起こってしまったことならば、仕方がない。

泣き叫んで、喚いても、何も始まらない。
時計の針は前にしか進まないのだから、どのように歩むのか、物語を紡ぐのか、考えなくちゃならない。

その電話を貰った時、与えてもらうばかりの自分が、彼に返せるものがあるのだとわかり、嬉しかった。

「……相馬のせいなんて。私達は自由に、この独立した街の中で生きているわ。御園の影響を受けていないとは言わないし、色々とお世話になっていることも事実。でも、だからって、この街で起こる不幸が、私たち家族に降りかかるものが、相馬のせいなはずがないじゃない。でも、そうね。相馬がそう言うってことは、廃墟について何か分かったのかな。一昨日、見知らぬ人が廃墟に来ていたのを見たのよね」

廃墟をぐるりと見回した後、中に入っていった。
恐らく、あの地下を見に行っていることは理解出来た。
そして、それが御園の手引きということも。

(でも、街に入っている時点で、父さん達は反対しなかったということだ。なら、沙耶が言うこともないわけで)

「相馬、心配症な私の為に、家族皆んなに護衛を付けたでしょう。黒宮の人達じゃない、相馬達を守る国随一の」

そして、家族全員が1日に1回、必ず、メールをくれる。
内容は他愛ないことで、写真も添付されていて、沙耶に存在を証明するような……それも、相馬が手配してくれたことは知っているし、心から感謝もしている。