「……話ってさ」
聞くか悩んでいた。御園家で過去にあった悲劇は、少しだけだけど、知っている。これでも、黒橋の娘だから。
でもその話は相馬の口から直接聞くべきのもので、変な噂や憶測だけで結論を出すのは大嫌いだから、これまでは気になることがあっても聞かなかった。
相馬自身のこと。時折、人じゃないと言うような話し方。
「相馬が辛いなら、話さなくていいんだよ」
─貴方はここにいて、とても優しくて。
沙耶なんかにも微笑んで、守ってくれる人なのに。
そんな優しい人がこんなに顔を曇らせるということは…。
「悪い。─別に、話をすることが嫌じゃなくて」
「そうなの?」
「ああ。─座っていいか?」
「もちろん」
相馬は沙耶の横に座り、
「…………まぁ、黒橋の娘だし、流石に知ってると思うけど、俺の母親は自ら命を絶っているんだ」
そう、呟いた。
当時、ニュースにもならなかった事件。
当たり前に隠蔽されたというそれは、世間に当主夫人は事故死であったと印象づけた。
沙耶はたまたま、父親の付き合い上で話を聞いて知っていたからであり、当時、キラキラした人達でも大変だと思った記憶がある。
「俺のせいで」
そう言って笑う姿は、既に慣れている人の顔。
「俺が産まれてきて、あの人は完全に壊れた」
相馬は、次男のはず。そして、下には双子がいて。
上には兄と姉がひとりずつ、五人兄弟の真ん中。
そんな相馬が生まれてきたから、壊れた。
─それはあまりにも、理解が及ばないことだった。
「聞いてもいいの?」
「ん?別に何でも聞いていいよ」
「じゃあ……その、御両親の仲が悪かった?」
「どうだろ。悪くはないと思うよ。父さんは優しい人……否、優しすぎる人だったから、ある日、居なくなってしまったけど」
「……」
「五人も子供が出来てるんだ。仲は悪くない。ただ、あの人が父さんに薬を盛った話がなければ、だけどね」
「……!」
相馬は「まぁ、これが父さんの悲劇の始まり」となんて事ないように呟いて、
「俺がいなければ、今も双子は両親を無くさなかったのかもしれないと思っている。兄さんもいなくならず、姉さんも学校に行って、全部、父さんがいれば」
顔を覆って、苦しそうに。


